評価分科会名: 菌類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | ハラタケ目 | 科名 | キシメジ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Agaricales | Family | Tricholomataceae |
| 和名 | マツタケ | ||
| 学名 | Tricholoma matsutake | ||
2. カテゴリー判定: 準絶滅危惧(NT) 判定基準: ②
| 基準A: ― | 基準B: VU未満 | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
生育状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。 具体的には、分布域の一部において、次の傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 ②生育条件が悪化している。 【判断理由】 農林水産省が公表している特用林産物生産統計調査の結果報告書によれば、マツタケの生産量は過去50年間で90%以上減少している。この減少は、主要な採取場所である低地のアカマツ林がマツ枯れ等により悪化・減少していることや、里山の管理不足等によって林床環境が悪化していること等が原因であると考えられ、今後さらに悪化・減少するおそれがある。 一方で、本種は低地の里山であるアカマツ林以外の、マツ科樹林(シラビソ、ハイマツ、ツガ、コメツガ等)にも生育しているが、自然環境保全基礎調査によれば、これらの植生は現在減少傾向にない。以上より、現時点で本種の絶滅の危険度は小さいと判断する。
3. 概要
日本のきのこを代表するマツタケは、アカマツなどマツ科植物に依存し共生する外生菌根菌である。本種が依存する植生である低地の里山林におけるアカマツ林の激減(管理された里山の減少、松枯れ等)により、生産量はこの50年ほどで激減している。この生産量は低地のアカマツの里山林における発生量の指標となると考えられる。一方、本種のもう一つの分布域と考えられる高山・亜高山帯のマツ科樹林(モミ属、ツガ属など)においては、発生量に大きな変化はないと考えられ、現時点で本種の絶滅の危険度は小さいと判断する。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
傘は径8-20(30) cm、柄は10-20(30) cm×15-30(50) mm。傘表面は淡黄褐色~くり褐色、最初繊維状、のち表皮は裂けて繊維状鱗片となる。柄はほぼ上下同大、つば(内被膜)より上部は白色粉状、下部は傘と同様の繊維状鱗片に覆われる。特有のマツタケの匂いを持つ。
本種と同様にマツ科の樹木と共生する類縁種のマツタケモドキとは、匂いの有無や形態で区別できる。また同様に近縁種であるバカマツタケやニセマツタケとは、本種の子実体がより大形であること、本種はマツ科と共生(バカマツタケとニセマツタケはブナ科と共生)することなどで区別できる。
【生活史】
マツ科の樹木(宿主)と共生し、宿主の根に外生菌根をつくる。菌根は菌糸および土と塊を形成するが、マツタケの場合、この塊は深く巨大で、肉眼でも確認可能なため、「シロ」と称されてきた。「シロ」を構成する菌糸は、宿主や近隣の樹木(マツ科)の根に菌根を作り続ける。この結果「シロ」は水平方向には最初は円形に拡大し、多くの場合ドーナツ形となるが、徐々にその形態は不明瞭になる。マツタケは、子実体形成をとおして担子胞子を形成・散布する。胞子の落着地点が適切な条件を有すれば、元の「シロ」とは遺伝的に異なる新たな「シロ」が形成され、結果的に個体群が維持される。また、「シロ」によっては、遺伝的に異なる複数の「ジェネット」で構成されることも知られており、その生活様式の全貌は、現在でも解明の途上にある。
【生息・生育環境】
主にアカマツ、あるいは、シラビソ、トドマツ、ハイマツ、ツガ、コメツガ、アカエゾマツなどと共生し、その林内に夏から秋にかけて発生する。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_中標高地 低標高地】森林 【陸域_平地部】森林 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (1)奥山自然地域,(2)里地里山・田園地域 |
【分布域】
北海道から鹿児島まで千葉県を除くほぼすべての地域に分布する。国外では、韓国、北朝鮮、中国、ブータン、ウクライナ、フィンランド、スウェーデン等に分布するユーラシア分布種である。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
本種が依存するマツ科の樹林のうち、江戸時代以降に日本列島各地で里山林として植栽・育成・管理されてきたアカマツ林は、本種の第一の分布域であるが、マツ枯れや里山林の管理不足による林床環境の悪化等により戦後激減している。そのため、本種の第一の分布域は縮小していると考えられる。一方、本種のもう一つの分布域は、高山・亜高山帯のマツ科(モミ属、ツガ属など)樹林にあると考えられているが、自然環境保全基礎調査によれば、これらの植生は現在減少傾向にないことが分かっている。したがって、本種のもう一つの分布域に関して大きな変化はないと考えられる。なお、本種の高い経済的価値により生育情報が秘匿される傾向にあるため、分布域の現況の把握は困難である。
【生息・生育地の現況】
本種の生育地はマツ科樹林であるが、第一の分布域である人里のアカマツ林では、里山の管理不足やマツ枯れにより生息環境が悪化・減少している。本種のもう一つの分布域と考えられる高山・亜高山帯のマツ科(モミ属、ツガ属など)樹林の生育環境について詳細は不明である。
【個体数の現況】
農林水産省の特用林産物生産統計調査によると、日本のマツタケの統計出荷量は過去50年間で90%以上減少している。この統計は本種の第一の分布域と考えられる低地のアカマツの里山林における発生量の指標となると考えられる。一方、本種のもう一つの分布域と考えられる高山・亜高山帯のマツ科樹林(モミ属、ツガ属など)における個体数の現況は情報が限られている。ただし、高山・亜高山帯のマツ科樹林は減少傾向にないため、本種のもう一つの分布域では発生量に大きな変化はないと考えられる。なお、本種の高い経済的価値により生育情報が秘匿される傾向にあり、本種の発生量の把握は困難である。
存続を脅かす要因
本種が依存する植生である低地の里山林におけるアカマツ林の激減(管理された里山の減少、松枯れ等)により、生産量はこの50年ほどで激減している。一方、もう一つの生育地である高山・亜高山帯のマツ科樹林(シラビソ、ハイマツ、ツガ、コメツガなど)においても、各種開発行為や将来危惧される更なる地球温暖化等により、生育地の存続がおびやかされている状況にあると考えられる。
| 要因の区分 | (過去) | 森林伐採, スキー場, 土地造成, 交通インフラ建設, 遷移進行・植生変化/自然遷移, 食用・薬用採取, 気候変動 |
|---|---|---|
| (現在) | 森林伐採, スキー場, 土地造成, 交通インフラ建設, 遷移進行・植生変化/自然遷移, 食用・薬用採取 |
特記事項
特になし
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Singer | NT |
| 第4次 2019 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Singer | NT |
| 第4次 2018 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Singer | NT |
| 第4次 2017 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Singer | NT |
| 第4次 2015 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Singer | NT |
| 第4次 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S.Ito & S.Imai) Singer | NT |
| 第3次 | マツタケ | Tricholoma matsutake (S. Ito & S. Imai) Singer | NT |
| 第2次 | - | - | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和4年度末時点)
青森県[要調査野生生物(Dランク)] 茨城県[絶滅危惧Ⅰ類] 栃木県[準絶滅危惧(Cランク)] 埼玉県[準絶滅危惧(NT)] 神奈川県[情報不足(DD)] 富山県[絶滅危惧Ⅱ類] 静岡県[絶滅危惧Ⅱ類(VU)] 三重県[絶滅危惧IB類(EN)] 京都府[準絶滅危惧種] 大阪府[VU] 和歌山県[準絶滅危惧(NT)] 広島県[準絶滅危惧(NT)] 愛媛県[絶滅危惧Ⅱ類(VU)] 福岡県[準絶滅危惧] 佐賀県[絶滅危惧Ⅱ類種] 宮崎県[絶滅危惧Ⅱ類(VU-g)]
保護に係る法令指定状況(令和4年度末時点)
指定なし
5. 参考⽂献
Aoki, W., N. Bergius, S. Kozlan, F. Fukuzawa, H. Okuda, H. Murata, T. A. Ishida, L. -M. Vaario, H. Kobayashi, E. Kalmis, T. Fukiharu, S. Gisusi, K. Matsushima, Y. Terashima, M. Narimatsu, N. Matsushita, K. H. Ka, F. Yu, T. Yamanaka, M. Fukuda and A. Yamada, 2022. New findings on the fungal species Tricholoma matsutake from Ukraine, and revision of its taxonomy and biogeography based on multilocus phylogenetic analyses. Mycoscience, 63: 197-214. 青木 渉,2023.カキシメジ類を含む日本産 Tricholoma 属の資源探索とその利用可能性に関する研究.信州大学審査学位論文.2023 年 3 月. 浜田 稔,1964.マツタケおよび類縁菌の菌糸純粋培養法.マツタケ―研究と増産―.マツタケ研究懇話会,京都.223 pp. Ito S. and S. Imai, 1925. On the taxonomy of shii-take and matsu-take. The Botanical Magazine, Tokyo 39: 319–328. 成松眞樹,2017.寒冷地域におけるマツタケの生態と栽培.岩手県林業技術センター研究報告,25: 1-132. 農林水産省,2024.特用林産物生産統計調査.https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokuyo_rinsan/(2024年11月6日閲覧) 小川 眞,1991.マツタケの生物学 補訂版.築地書館,東京.326 pp.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Tricholoma matsutake has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Tricholoma matsutake is listed as NT under criteria ②.
The species that is considered to be under increasing pressure for survival, as indicated by habitat status trends, specifically with the following notable tendencies in parts of its distribution that are likely to continue. ②Habitat conditions are deteriorating.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Mid-altitude area Low-altitude area】Forest 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Forest |
|---|---|
| Threat types | Logging and wood harvesting, Ski resort development, Land development, Transportation infrastructure construction, Successional progression/Vegetation change/Natural succession, Harvesting of biological resources for food and medicinal use, Climate change |
| Law designation status for conservation | - |
| 執筆者: | 吹春俊光(元千葉県立中央博物館) |
| Author: | Toshimitsu Fukiharu |
| 協力者: | 成松眞樹(岩手県林業技術センター)・糟谷大河(慶應義塾大学)・服部力(森林総合研究所)・保坂健太郎(国立科学博物館)・細矢剛(国立科学博物館)・山田明義(信州大学)・(一財)自然環境研究センター |
公開年月:2025年3月
©吹春俊光(元千葉県立中央博物館)