評価分科会名: 藻類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | 真正紅藻綱チスジノリ目 | 科名 | チスジノリ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Florideophyceae Thoreales | Family | Thoreaceae |
| 和名 | フトチスジノリ | ||
| 学名 | Thorea hispida | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠA類（CR） 判定基準: B2ab
| 基準A: ― | 基準B: CR | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
B2．生育地面積が10 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生育地が過度に分断されているか、ただ1か所の地点に限定されている。 【過度に分断】 主に関東北部に分布しているが、福島県北部や沖縄本島でも生育が確認される。各生育地は、河川改修により容易に消失するほど小規模である。 b) 出現範囲、生育地面積、生育地の質、生育地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 これまで分布していた場所で生育が確認できないなど、生育地が減少している兆候が見られる。福島県の産地は林道工事により生育域が大きく改変された可能性が指摘されている。
3. 概要
日本では群馬県館林市矢場川、栃木県足利市下矢場川、茨城県坂東市菅生沼、水海道市（現、常総市）東仁連川など関東以北に生育している。近年沖縄県本部町塩川で胞子体の生育が確認された。河川改修工事により産地が失われるおそれがある。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
藻体は雌雄同株、紫色を帯びた褐色で、よく分枝して全長は100 cm以上になる。同化糸はまれにもしくはしばしば分枝し、長さ400-1200 µm、11-30個の細胞からなる。精子嚢は皮層部基部付近の短い同化糸に頂生または側生し、2-4個で房状になる。造果器は同化糸基部に側生し、造果器基部は球形。受精毛は糸状で長さ58-280 µm。果胞子嚢は造胞糸の先端または先端付近に単独または房状に形成される。単胞子嚢は倒卵形で長さ16-21 µm、直径8-14 µm。
【生活史】
造果器が精子と受精すると、雌性配偶体上で果胞子体組織が発達し、果胞子体に果胞子嚢が形成される。果胞子嚢から放出された果胞子は、不規則に分枝した単列糸状の微視的な胞子体（シャントランシア期）に発達する。胞子体には四分胞子嚢は形成されず、先端の細胞で減数分裂が起こり、その細胞から配偶体が形成されると考えられている。配偶体は秋に出現、晩秋から春にかけて最盛期を迎え、晩春には消滅する。夏季はシャントランシア期で過ごすのが一般的である。本種については採集時以外の季節の生育は不明。
【生息環境】
小河川の川底の小石に付着して生育している。アメリカオハイオ州ではザリガニ体上に胞子体が生育しているのが確認された。アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、ロシア、北アメリカ、ハワイに分布。
| 生育環境区分 | 【陸域_平地部】小河川, 汽水域 |
|---|---|
| 国土地域区分 | （2）里地里山・田園地域,（4）河川・湿地地域 |
【分布域】
日本では群馬県館林市矢場川、栃木県足利市下矢場川、茨城県坂東市菅生沼、水海道市（現、常総市）東仁連川など関東以北、および沖縄県本部町塩川に生育している。チスジノリが関東から九州まで西日本に広く分布するのに対して、本種の分布は茨城県、栃木県、群馬県など関東以北に限定されていたが、近年、沖縄県本部町塩川において本種の胞子体が採集された。
現在の生育状況
【分布域の現況】
産地数について大きな変化はないと考えられる。
【生育地の現況】
沖縄県本部町塩川ではシオカワイソモッカ、ホソアヤギヌ、フタマタコケモドキが優占しており、本種の生育は少ない。他の生育地の現況は不明である。
【個体数の現況】
沖縄県本部町塩川では胞子体が多数生育していたが、他の生育地における個体数は不明である。
存続を脅かす要因
河川改修工事により産地が失われるおそれがある。
| 要因の区分 | （過去） | 河川開発 |
|---|---|---|
| （現在） | 河川開発 |
特記事項
観賞用生物に着生して分布を広げている可能性が指摘されている。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | フトチスジノリ | Thorea hispida (Thore) Desv. | CR+EN |
| 第4次 2019 | フトチスジノリ | Thorea hispida (Thore) Desv. | CR+EN |
| 第4次 2018 | フトチスジノリ | Thorea hispida (Thore) Desv. | CR+EN |
| 第4次 2017 | フトチスジノリ | Thorea hispida (Thore) Desv. | CR+EN |
| 第4次 2015 | フトチスジノリ | Thorea hispida (Thore) Desv. | CR+EN |
| 第4次 | フトチスジノリ | Thorea hispida (Thore) Desv. | CR+EN |
| 第3次 | フトチスジノリ（新称） | Thorea hispida (Thore) Desvaux | CR+EN |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況（令和４年度末時点）
茨城県[絶滅危惧Ⅰ類] 栃木県[絶滅危惧Ⅰ類（Aランク）]
保護に係る法令指定状況（令和４年度末時点）
指定なし
5. 参考⽂献
Carlile, A. L. and A. Sherwood, 2002. Phylogenetic affinities and distribution of the Hawaiian freshwater red algae (Rhodophyta). Phycologia, 52: 309-319. 茅根重夫・小幡和男・羽生田岳昭・熊野 茂・鈴木昌友，2004．東仁連川と菅生沼でチスジノリ属の1種（紅藻植物）の生育を確認．茨城県自然博物館研究報告，7: 197-201． Fuelling, L. J., Adams, J. A., Badik, K. J. et al., 2012. An unusual occurrence of Thorea hispida (Thore) Desvaux chantransia on rusty crayfish in West Central Ohio. Nova Hedwigia, 94: 355-366. Georgiev, A. A., Belyakova, G. A., Chudaev, D. A., Georgieva, M. L., & Gololobova, M. A., 2018. NEW RECORD OF RED ALGA THOREA HISPIDA (THORE) DESV. (RHODOPHYTA) IN THE MOSKVA RIVER. Vestnik Moskovskogo universiteta. Seriya 16. Biologiya, 73: 38-42. Han, J., Nan, F., Feng, J., L ü, J., Liu, Q., Liu, X., & Xie, S., 2021. Affinities of freshwater “Chantransia” stage algae (Rhodophyta) from China based on molecular and morphological analyses. Journal of Oceanology and Limnology, 39: 1063-1076. Johnston, E. T., Dixon, K. R., West, J. A., Buhari, N., & Vis, M. L., 2018. Three gene phylogeny of the Thoreales (Rhodophyta) reveals high species diversity. Journal of Phycology, 54(2): 159-170. 熊野茂，2000．世界の淡水産紅藻，283-285，内田老鶴圃，東京都文京区． Nan, F. R., Feng, J., Lv, J. P., Liu, Q., Liu, X. D., Gao, F., & Xie, S. L., 2020. Comparison of the transcriptomes of different life history stages of the freshwater Rhodophyte Thorea hispida. Genomics, 112: 3978-3990. Zhan, S. H., Hsieh, T. Y., Yeh, L. W., Kuo, T. C., Suda, S., & Liu, S. L, 2021. Hidden introductions of freshwater red algae via the aquarium trade exposed by DNA barcodes . Environmental DNA, 3: 481-491.
6. アセスメントサマリー（Assessment summary）
Thorea hispida has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Thorea hispida is listed as CR under criteria B2ab.
B2. Area of occupancy estimated to be less than 10 km², and estimate indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at only a single location. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Small river, Brackish water |
|---|---|
| Threat types | River development |
| Law designation status for conservation | － |
| 執筆者: | 北野瑞生（東京海洋大学）・神谷充伸（東京海洋大学） |
| Author: | Mizuki Kitano and Mitsunobu Kamiya |
| 協力者: | 比嘉 敦（株式会社 沖縄環境分析センター）・羽生田 岳昭（北里大学）・洲澤 譲（河川生物研究所） |
公開年月：2025年3月
©北野瑞生（東京海洋大学）