評価分科会名: 爬虫類・両生類分科会
1. 判定対象種情報 日本固有
| ⽬名 | 有尾目 | 科名 | イモリ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Caudata | Family | Salamandridae |
| 和名 | オキナワシリケンイモリ | ||
| 学名 | Cynops ensicauda popei (Inger, 1947) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: B1ab
| 基準A: ― | 基準B: EN | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
B1.出現範囲が5000 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。 【過度に分断】 沖縄島南部ではもともと少なかったが、都市部に近い那覇以南の地域の開発が進んでおり、生息地は明らかに減っている。都市公園の整備、調整池の整備で良好な生息地が消滅、縮小した例も見られる。沖縄中北部でも幹線道路の整備で、生息地が破壊されたり、生息個体数が減少した場所もある。こうした開発等により分断化され、狭い範囲に残存する小個体群は絶滅リスクが高い状況にある。 b) 出現範囲、生息地面積、生息地の質、生息地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 沖縄島北部は世界自然遺産に登録された地域であり、観光やエコツアーなどでの森林環境の利用が増加しており、これに伴う環境の破壊、轢死の増加が懸念される。また、最近の有尾類の飼育ブームの飼育動物として頻繁に採集されて、安価な価格で多数、売買されており、他の種よりも高い捕獲圧にさらされている。長寿命な動物であり、再生産力はあまり高くない動物と考えられ、捕獲圧や轢死、環境破壊による影響は大きい。
3. 概要
本亜種は沖縄島・渡嘉敷島など、沖縄諸島の10島に分布するが、開発にともなう生息域・繁殖場所の縮小に加え、販売目的の成体の乱獲が個体群に深刻な影響を与えている。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
成体の全長は106~179 mm程度。頭胴長はオスが50~63 mm、メスで53~82 mm程度。背面は黒褐色だが、ほぼ半数の個体で黄白色の地衣類様斑紋が背中線域に現れる。腹面は朱色から橙色ないし黄色で、黒褐色の不規則な斑紋がある。四肢の指の下面も橙色ないし黄色。オスには、繁殖期でも白色の婚姻色は現れない。
【生活史】
一年を通して湿潤な林床や草地などに生息し、繁殖はため池などの止水や流れの遅い流水で、おもに11~6月の間に行われる。地域によっては、繫殖期が9月までに及ぶことがある。この時期オスは水中でメスを待ち、メスが現れると儀式的な行動を通して精子の入った袋(精包)をメスに渡す。メスは、後肢を用いて水中の水草などに一つずつ卵を包み込むようにして産卵する。湿ったコケなどに付着させる形で、時には陸上でも産卵する。幼生はふ化後3~4ヶ月で変態・上陸するが、成熟までには数年を要すると思われる。
【生息・生育環境】
生息環境は低地の湿地、池、水田から山地の渓流までと幅広い。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_低標高地】森林,田地・畑地,耕作放棄地,農業用水路,河川上流域,河川中流域 【陸域_平地部】森林,草地,田地・畑地,湿地・湿原,潟・湖・ダム湖 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域,(4)河川・湿地地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
沖縄諸島の10島に分布する。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
沖縄諸島の10島(沖縄島・瀬底島・浜比嘉島・渡名喜島・座間味島・阿嘉島・慶留間島・外地島・渡嘉敷島・前島)に分布する。
【生息・生育地の現況】
土地開発にともなう生息域・繁殖場所の縮小、側溝等の敷設にともなう繁殖集団の分断・墜落死亡個体の増加、観賞・飼育用としての売買目的の成熟個体の乱獲などが見られる。
【個体数の現況】
分布域の広い範囲で生息地の消失、生息環境の悪化が進行していることは明らかであり、減少していることは間違いない。沖縄島南部のある水場では、ここ15 年ほどの間に、繁殖期の出現個体数が密度にして1/4以下に減少してしまった。
存続を脅かす要因
開発にともなう生息域・繁殖場所の縮小、側溝等の敷設にともなう繁殖集団の分断・落下死亡、観賞用としての販売目的の成体の乱獲等が個体数減少の原因と考えられる。県外都市地区の多くのペットショップで販売されている。繁殖期以外は基本的に陸上生活を送るものの、産卵期には限られた水場に多数の個体が集まることも多く、一見、個体群密度が高いような印象を受ける。しかし実際には、卵や幼生時代の捕食・競争・共食いなどにより変態・上陸する個体は少ないと考えられ、成体の乱獲が個体群に深刻な影響を与えている可能性が高い。
| 要因の区分 | (過去) | 土地造成,交通インフラ建設,捕獲・狩猟/園芸採取,食用・薬用採取 |
|---|---|---|
| (現在) | 土地造成,交通インフラ建設,捕獲・狩猟/園芸採取,食用・薬用採取 |
特記事項
これまでは、鹿児島県産の基亜種と区分せずに、種シリケンイモリCynops ensicaudaとして扱われることが多かったが、奄美諸島との遺伝的分化程度が大きく、形態的な違いも明瞭なことから、最近では亜種オキナワシリケンイモリCynops ensicauda popeiとして扱われるようになった。比較的最近分類変更があっため、地方自治体のレッドリストや保護に係る法令指定、各種文献等では、分類変更前のタクソン(広義シリケンイモリ)として扱われている場合があることに注意が必要。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ― | ― | ― |
| 第4次 2019 | ― | ― | ― |
| 第4次 2018 | ― | ― | ― |
| 第4次 2017 | ― | ― | ― |
| 第4次 2015 | ― | ― | ― |
| 第4次 | ― | ― | ― |
| 第3次 | ― | ― | ― |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【沖縄県】準絶滅危惧(NT)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
指定なし
5. 参考⽂献
太田英利・岡田滋,2003.爬虫類・両生類.鹿児島県環境生活部環境保護課(編),鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編 鹿児島県レッドデータブック,pp. 82-116.財団法人鹿児島県環境技術協会,鹿児島. 田中聡,1994.瀬底島におけるイボイモリとシリケンイモリの生態についての予備観察.沖縄生物教育研究会誌,26: 13-21. 田中聡,2005.シリケンイモリ.沖縄県文化環境部自然保護課(編),改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 140-141.沖縄県文化環境部自然保護課,那覇. 富永篤,2018.シリケンイモリ,pp. 227-228,沖縄県環境部 自然保護課,那覇. 富永篤・松井正文,2021.オキナワシリケンイモリ.日本爬虫両棲類学会(編),新日本両生爬虫類図鑑,pp. 31,サンライズ出版,彦根. Tominaga, A., H. Ota, and M. Matsui, 2010. Phylogeny and phylogeography of the sword-tailed newt, Cynops ensicauda (Amphibia: Caudata), as revealed by nucleotide sequences of mitochondrial DNA. Mol. Phylogenet. Evol., 54: 910-921.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Cynops ensicauda popei has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Cynops ensicauda popei is listed as EN under criteria B1ab.
B1. Extent of occurrence estimated to be less than 5,000 km², and estimates indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at five or fewer locations. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Low-altitude area】Forest, Farmland, Abandoned farmland, Agricultural ditch, Upper river basin, Middle river basin 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Forest, Grassland, Farmland, Wetland, Lagoon/Lake/Dam |
|---|---|
| Threat types | Land development, Transportation infrastructure construction, Hunting and collecting animals/Gathering plants, Harvesting of biological resources for food and medicinal use |
| Law designation status for conservation |
| 執筆者: | 富永篤(琉球大学)・松井正文(京都大学) |
| Author: | Atsushi Tominaga and Masafumi Matsui |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©富永篤(琉球大学)