評価分科会名: 爬虫類・両生類分科会
1. 判定対象種情報 日本固有
| ⽬名 | 無尾目 | 科名 | アカガエル科 |
|---|---|---|---|
| Order | Anura | Family | Ranidae |
| 和名 | ホルストガエル | ||
| 学名 | Babina holsti (Boulenger, 1892) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: B2ab
| 基準A: ― | 基準B: EN | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
B2.生息地面積が500 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。 【地点数】5地点以下 b) 出現範囲、生息地面積、生息地の質、生息地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 かつて本部半島にも生息していた本種は森林の縮小と、おそらくはマングースなどの捕食者の影響で分布域を狭めてきた。それらの要因は未だ取り除かれておらず、今後も分布域の縮小は進行していくものと思われる。
3. 概要
沖縄諸島の沖縄島と渡嘉敷島に分布し、常緑広葉樹林および回復の進んだ二次林内の渓流とその周辺の林床に生息する。近年の圃場整備や林道の敷設・整備により生息域が縮小し個体数も減少している。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
成体の頭胴長は、オスで100~124 mm、メスでは103~119 mm程度。頑丈な体格で、頭部は広く、頭幅は頭胴長の39%ほど。第1指の内側に肉質の袋状の拇指が発達する。この拇指の中には骨質の棘が納まっており、危険を感じた時などに突出する。背面は比較的滑らかで、顆粒の発達は微弱。胴背面の色は褐色で体側には黒褐色の丸い隆起が散在する。虹彩は赤褐色で上部は金色。成熟したオスの脇腹には直径1 cmほどのオレンジ色の円形隆起がある。近縁のオットンガエルとは、胴背面および側面の隆起が弱いことで区別できる。
【生活史】
春から秋にかけて活動する。小型の個体は冬季でも活動することがある。繁殖期は4月下旬~9月上旬で、このうち7~8月が最盛期。渓流の源流域や山地にできた湿地脇などのわずかに流れのある場所に低い土手に囲まれた直径30~50 cmほどの窪みを掘り、その中に直径2.3~2.5 mmほどの卵を800~1,000個産む。産みたての卵は水面に浮き、互いに緩く結合している。幼生は成長すると全長80 mmほどになり、生まれた年の秋までに変態するか、そのまま越冬し翌年の5~6月に変態・上陸する。性成熟までに要する年数、寿命等は不明。頭胴長60~80 mmほどの亜成体は陸貝類や小型ないし中型の昆虫類を捕食し、それより大きな成体では大型の昆虫類やムカデ類、小さなヘビ類まで食べることが知られている。
【生息・生育環境】
常緑広葉樹林に覆われた山地の渓流沿いや源流部の湿地に生息する。山林のなかにある止水に近い水場で繁殖し、幼生の生育場所として清冽な渓流沿いの半止水環境が必要。成体は林道でも見かけることがある。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_低標高地】森林,河川源流域 【陸域_平地部】湿地・湿原 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (1)奥山自然地域,(2)里地里山・田園地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
沖縄島の北部山地と渡嘉敷島に分布する。近縁のオットンガエルは奄美諸島の奄美大島、加計呂麻島、枝手久島に分布する。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
沖縄島では塩谷湾と平良を結ぶラインの北側に生息している。1970年代かそれ以前には、名護市東部や本部半島の本部町、今帰仁村の一部からも報告されている。しかし、名護市からは2002年以降の記録はなく、個体群が消滅した可能性が高い。また本部半島でも最近は確認されていない。渡嘉敷島では北部から南部にかけて分布していたが、南部では数が少なく、島内での南限が北上した可能性がある。
【生息・生育地の現況】
沖縄島と渡嘉敷島の双方で林道の敷設や拡張が進み、生息環境は悪化している。沖縄島では農地開発による森林伐採もあり、本種の生息に悪影響を与えている。渡嘉敷島には、近年、外来のイノシシが定着し、山地部の尾根沿いから山腹、渓流沿いにおよぶ広い範囲で底質が掘り起こされている。本種も、直接的、間接的に大きな影響を受けていると考えられる。
【個体数の現況】
資料が不足しており、個体数やその動態を具体的に示すことはできないが、分布域の縮小と生息環境の悪化により、個体数が減少傾向にあることは間違いない。沖縄島では、生息密度が高い地点は分布域の北側に限定され、分布域の南端近くの個体群は遺伝的にも単調で、北側の個体群から隔離され、集団サイズも小さくなっていることが示唆されている。
存続を脅かす要因
道路の敷設や拡張、農地開発に伴う森林伐採などによる生息地の消失、生息環境の劣化が本種の生息を圧迫する主要因と考えられる。また、名護市や本部半島の個体群の衰退はマングースの影響によるところが大きいと考えられる。渡嘉敷島では野生化したイノシシによる食害に加え、水場や林床の掘り返しによる悪影響も小さくないと思われる。
| 要因の区分 | (過去) | 森林伐採,交通インフラ建設,ダム・河川工作物建設,捕食(外来種による) |
|---|---|---|
| (現在) | 森林伐採,交通インフラ建設,ダム・河川工作物建設,捕食(外来種による) |
特記事項
奄美諸島のオットンガエルとともに遺存性の高い系統群を構成しており、学術的に貴重である。また、沖縄島北部の山地に生息する大型のカエル類のなかでは例外的に渡嘉敷島にも見られることから、この地域の生物相の成り立ちや、古環境を知るためにも重要な種といえる。DNA情報を用いた最近の研究により、沖縄島と渡嘉敷島の集団は遺伝的に明瞭に分化していることが示されている。また、沖縄島においては、現在の分布域の南限付近の個体群で遺伝的多様性が低下していることが明らかになっており、遺伝的変異の地理的パターンから、最近の集団サイズの縮小によると解釈されている。沖縄県の天然記念物に指定されている。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ホルストガエル | Babina holsti | EN |
| 第4次 2019 | ホルストガエル | Babina holsti | EN |
| 第4次 2018 | ホルストガエル | Babina holsti | EN |
| 第4次 2017 | ホルストガエル | Babina holsti | EN |
| 第4次 2015 | ホルストガエル | Babina holsti | EN |
| 第4次 | ホルストガエル | Babina holsti | EN |
| 第3次 | ホルストガエル | Rana holsti | EN |
| 第2次 | ホルストガエル | Babina holsti | VU |
| 第1次 | ホルストガエル | Babina holsti | V |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【沖縄県】絶滅危惧ⅠB類(EN)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種
5. 参考⽂献
千木良芳範,2005.ホルストガエル.改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 135–136.沖縄県文化環境部自然保護課,那覇. Kakehashi, R., A. Kurabayashi, O. Oumi, S. Katsuren, M. Hoso, and M. Sumida, 2013. Mitochondrial genomes of Japanese Babina frogs (Ranidae, Anura): unique gene arrangements and the phylogenetic position of genus Babina. Gene. Genet. Syst., 88: 59–67. 松井正文,2021.ホルストガエル.日本爬虫両棲類学会(編),新日本両生爬虫類図鑑,pp. 55.サンライズ出版,彦根. 松井正文・前田憲男,2018.日本産カエル大鑑.文一総合出版,東京. Okochi, I. and S. Katsuren, 1989. Food habitsin four species of Okinawan frogs. In: M. Matsui, T. Hikida and R. C. Goris (eds.), Current Herpetology in East Asia. pp. 405–412. The Herpetological Society of Japan, Kyoto. 太田英利,2000.ホルストガエル.改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物(両生類・爬虫類),pp. 98–99.環境省自然保護局野生生物課,東京. Tominaga, A., M. Matsui, and K. Nakata, 2014. Genetic diversity and differentiation of the Ryukyu endemic frog Babina holsti as revealed by mitochondrial DNA. Zool. Sci., 31: 64–70. 宇都宮泰明・宇都宮妙子,1983.南西諸島のカエルの卵および幼生について.広島大学生物生産学部紀要,22: 255–270.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Babina holsti has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Babina holsti is listed as EN under criteria B2ab.
B2. Area of occupancy estimated to be less than 500 km², and estimate indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at five or fewer locations. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Low-altitude area】Forest, River headwater 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Wetland |
|---|---|
| Threat types | Logging and wood harvesting, Transportation infrastructure construction, Dam/River structures construction, Predation (by alien species) |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. |
| 執筆者: | 戸田守(琉球大学) |
| Author: | Mamoru Toda |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©環境省