評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報 日本固有
| ⽬名 | スズメ目 | 科名 | アトリ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Passeriformes | Family | Fringillidae |
| 和名 | オガサワラカワラヒワ | ||
| 学名 | Chloris kittlitzi (Seebohm, 1890) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠA類(CR) 判定基準: B2ab
| 基準A: ― | 基準B: CR | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
B2.生息地面積が10 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生息地が過度に分断されているか、ただ1か所の地点に限定されている。 【過度に分断】 母島属島集団と南硫黄島集団は250 km以上離れており、その間にある島では集団が絶滅している。 b) 出現範囲、生息地面積、生息地の質、生息地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 母島属島では2017年から2020年の間にカメラトラップでの撮影頻度が20-30%に低下している。また個体群シミュレーションにより、保全策が取られなければ減少傾向が続き15年程度で集団が消滅すると予測されている。
3. 概要
オガサワラカワラヒワは小笠原諸島の典型的な森林である乾性低木林に適応して進化した鳥である。本種は過去には諸島全体に広く分布していたが、クマネズミが侵入した島では繁殖集団が絶滅し、最近は母島属島と南硫黄島でのみ繁殖が記録されている。繁殖個体数は母島属島と南硫黄島にそれぞれ約100個体と推定されており、母島属島では過去約25年で個体群密度が約10%に減少している。母島属島にはドブネズミが侵入しており、その捕食が近年の減少の主因となっていると考えられる。このまま保全措置がとられなければ母島属島の集団は15年程度で絶滅すると予測され、2021年には種の保存法に基づく保護増殖事業計画が策定されて、ネズミ駆除、ネコ対策、域外保全などが始まった。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
カワラヒワChloris sinica minorに似るが、カワラヒワより体重、翼長、尾長ともにやや小さく、嘴峰長はより長く、体の割に嘴全体が大きい。オスは頭部から背、胸にかけてオリーブグリーンで、背は茶色、下尾筒は黄色。メスはオスに比べ全身の褐色みが強い。雌雄ともに嘴がピンクで、翼に黄斑がある。若鳥は嘴が黒く、腹に縦斑がある。
【生活史】
主に4月-6月ごろに繁殖する。最近になり秋にも繁殖することが明らかになってきたが、詳細はまだ不明である。巣は過去にはアカテツやムニンハツバキなどの在来植物の樹上でも見つかっていたが、近年はほぼ外来植物のトクサバモクマオウでしか見つかっていない。一腹卵数は3-4個でカワラヒワに比べて少なく、一方で卵サイズは大きい。繁殖期後は島間移動することが知られており、母島では6月下旬から10月頃に観察される。母島列島では観察される個体が冬季に激減するが、この時期にどこに移動しているかは不明である。ムニンアオガンピやウラジロエノキ、トクサバモクマオウ、ギンネム、スベリヒユ、キキョウランなど、多様な植物の種子を採食する。
【生息・生育環境】
母島列島では属島の乾性低木林で繁殖する。母島本島では繁殖は確認されていないが、非繁殖期に島の南部の低標高地の農耕地、集落、草地、低木林などで見られており、集落よりも北ではほとんど見られない。南硫黄島では標高300 m以下のセンダンやアカテツが優占する低木林において観察されている。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_低標高地】裸地,森林,草地,田地・畑地 【陸域_平地部 海岸部】裸地,森林,草地,田地・畑地,耕作放棄地,市街緑地,小河川 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (1)奥山自然地域,(2)里地里山・田園地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
小笠原諸島の聟島列島、父島列島、母島列島、火山列島で広く記録がある。戦前には聟島で繁殖した個体が非繁殖期に父島列島や母島列島に移動していたとされる。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
聟島列島では過去には多産したが、1931年の記録を最後に絶滅している。父島列島では1974年に兄島で観察されて以後継続的な記録はないが、父島や東島で稀に少数個体が観察されることがある。これらは母島列島から移動している可能性がある。母島列島では属島の向島、平島、姉島、妹島、姪島で繁殖し、非繁殖期には母島にも飛来する。硫黄列島では南硫黄島のみで繁殖しているが、ごく稀に北硫黄島、硫黄島でも本種と考えられる個体が観察されることがある。
【生息・生育地の現況】
母島列島の属島では、ムニンアオガンピやアカテツ、シマシャリンバイなどが優占する乾性低木林や外来種であるトクサバモクマオウ林に生息している。以前はアカテツやムニンハツバキなどの在来低木でも営巣が見られたが、近年は主にトクサバモクマオウの枝上でのみ営巣が見つかっている。母島では乾性低木林に加え、農地や草地をよく利用している。台風や干魃などの気象害が生じると植物の結実が影響を受け食物が不足するため、繁殖成功率が低下する傾向がある。
【個体数の現況】
19世紀には本種が聟島列島から火山列島まで広く繁殖していたと考えると、現在の繁殖地の面積は当時の10分の1以下となっている。また、母島属島におけるラインセンサスの結果から1996年ごろに比べて2020年には個体群密度が約10分の1となっている。母島属島におけるカメラトラップによる撮影頻度は2017年から2020年にかけて20-30%に低下している。近年の繁殖個体数は母島属島と南硫黄島にそれぞれ約100個体と推定されている。このまま保全措置がとられなければ、母島列島の集団は15年程度で絶滅すると予測されている。
存続を脅かす要因
オガサワラカワラヒワは、現在クマネズミが侵入していない島でのみ繁殖し、クマネズミが侵入している全ての島からは繁殖集団が消失していることから、樹上で雛や卵などを捕食するクマネズミが最大の脅威と考えられる。現在この鳥が繁殖している母島属島では、クマネズミはいないもののドブネズミが侵入している。ドブネズミも、クマネズミに比べ頻度は低いものの、樹上で巣内の雛や卵を捕食すると考えられ、近年の母島属島での減少の主な原因はこれにあると考えられている。同時にネズミ類は食物をめぐる競争者ともなる。また母島ではノネコによる捕食が問題となっている。過去には、ノヤギの食害により森林が失われたことも、分布縮小の一因となっていたと考えられる。近年は気候変動の影響で台風や旱魃などの気象害の激甚化が懸念されているが、これらの影響で年によって結実量が激減し、繁殖成功率が低下する場合がある。火山列島の集団はもともと北硫黄島、硫黄島を含めてメタ個体群を形成していたと考えられるが、現在は面積の狭い南硫黄島にしか生残していないため、人口学的確率性や遺伝的浮動による有害変異の固定による絶滅リスクの上昇が懸念される。
| 要因の区分 | (過去) | 森林伐採,海岸開発,捕食(外来種による),遷移進行・植生変化/自然遷移,競争/競合(外来種による) |
|---|---|---|
| (現在) | 捕食(外来種による),競争/競合(外来種による),気候変動,分布・産地局限 |
特記事項
本種の危機的状況を受け、2021年に種の保存法に基づく保護増殖事業計画が策定され、母島属島におけるネズミ駆除や、母島南部におけるノネコ対策の強化、飼育下繁殖集団の確立と野生復帰による個体群の補強を目的とした域外保全などが実施されている。オガサワラカワラヒワは、以前はカワラヒワの亜種とされていたが、DNA分析によりカワラヒワとは100万年以上前に分岐した集団であることが明らかになり、現在は独立種と認められている。本種は小笠原諸島の典型的な森林タイプである乾性低木林に適応して進化した唯一の脊椎動物である。近年本種は外来種のトクサバモクマオウでのみ営巣が見つかっているが、これはこの樹種の幹が通直でドブネズミが登りづらく、捕食圧が軽減されているためと考えられている。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | オガサワラカワラヒワ | Chloris sinica kittlitzi | CR |
| 第4次 2019 | オガサワラカワラヒワ | Chloris sinica kittlitzi | CR |
| 第4次 2018 | オガサワラカワラヒワ | Chloris sinica kittlitzi | CR |
| 第4次 2017 | オガサワラカワラヒワ | Chloris sinica kittlitzi | CR |
| 第4次 2015 | オガサワラカワラヒワ | Carduelis sinica kittlitzi | CR |
| 第4次 | オガサワラカワラヒワ | Carduelis sinica kittlitzi | CR |
| 第3次 | オガサワラカワラヒワ | Carduelis sinica kittlitzi | EN |
| 第2次 | オガサワラカワラヒワ | Carduelis sinica kittlitzi | EN |
| 第1次 | オガサワラカワラヒワ | Carduelis sinica kittlitzi | E |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【東京都(小笠原諸島)】絶滅危惧ⅠA類(CR)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種,保護増殖事業,鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
Kawakami, K. and M. Fujita, 2004. Feral cat predation on seabirds on Hahajima, the Bonin Islands, Southern Japan. Ornith Sci, 3: 155-158. 川上和人・鈴木創・堀越和夫・川口大朗,2018.2017年における南硫黄島の鳥類相.小笠原研究, 44: 217-250. 川上和人・川口大朗,2022.オガサワラカワラヒワの個体群存続に対する脅威.小笠原研究,48:17-30. 川上和人・川口大朗,2022.オガサワラカワラヒワの生態と個体群の現状.小笠原研究,48:3-15. 川上和人,2019.小笠原諸島における撹乱の歴史と外来生物が鳥類に与える影響.日本鳥学会誌,68: 237-262. 籾山徳太郎,1930.小笠原諸島並に硫黄列島産の鳥類に就て.日本生物地理学会会報,1(3): 89-186. Nakamura, H., 1997. Ecological adaptaions of the Oriental Greenfinch Carduelis sinica on the Ogasawara Islands. Jpn. J. Ornithol., 46: 95-110. 南波興之,2022.オガサワラカワラヒワの存続可能性分析.小笠原研究,48:47-65. Saitoh, T., K. Kawakami, Y. A. Red'kin, I. Nishiumi, C. H. Kim and A.P. Kryukov, 2020. Cryptic speciation of the Oriental Greenfinch Chloris sinica on oceanic islands. Zoological Science, 37: 280-294. 鈴木惟司,1994.母島列島におけるオガサワラカワラヒワの生息状況.日本鳥学会誌,43: 134-135. 時田賢一・渡辺義昭,2001.硫黄島鳥類目録(1999年10月-2000年8月).我孫子市鳥の博物館調査研究報告,9: 35-45. 東京府小笠原島庁,1914.小笠原島ノ概況及森林.東京府小笠原島庁. 塚本洋三,1982.南硫黄島の鳥類.南硫黄島原生自然環境保全地域調査報告書,pp. 249-285.環境庁自然保護局,東京.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Chloris kittlitzi has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Chloris kittlitzi is listed as CR under criteria B2ab.
B2. Area of occupancy estimated to be less than 10 km², and estimate indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at only a single location. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Low-altitude area】Bare area, Forest, Grassland, Farmland 【Terrestrial/Freshwater area_Plain, Beach】Bare area, Forest, Grassland, Farmland, Abandoned farmland, Urban green area, Small river |
|---|---|
| Threat types | Predation (by alien species), Competition (with alien species), Climate change, Limited distribution |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. Conservation and reproduction programs. Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 川上和人(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所) |
| Author: | Kazuto Kawakami |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©川上和人
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