評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | カモ目 | 科名 | カモ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Anseriformes | Family | Anatidae |
| 和名 | カリガネ | ||
| 学名 | Anser erythropus (Linnaeus, 1758) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: D
| 基準A: ― | 基準B: ― | 基準C: ― | 基準D: EN | 基準E: ― |
D.成熟個体数が250未満であると推定される個体群である。 【推定根拠】 モニタリングサイト1000では、2010年以降の各年の最大飛来数は1-16羽で、毎年観察記録がある(環境省自然環境局 2020)。渡りの際に通過する北海道北部のサロベツ原野では、2005-2007年に毎年20-50羽程度の個体が確認され、2001-2004年より増加している(Ikawa & Ikawa 2009)。宮城県では、2015-2016年の越冬期以降、毎年100-300羽が確認(平均190羽)されており、2019-2020年の越冬期には307羽が確認されていることから、近年増加傾向にあるが、中国や韓国を含む極東地域の個体群は減少傾向である(Ao et al 2020)。サロベツに飛来する個体群の幼鳥の割合は40-60%であるが、中国の長江河口のカリガネ個体群の幼鳥の割合は平均15%である。近年の宮城県の飛来数の平均190羽(最大307羽)は幼鳥も含む個体数で、中国の幼鳥率が15%であることを考慮すると、宮城県に飛来する成熟個体は、平均162羽、最大値で261羽と試算できる。
3. 概要
カリガネは近縁種のマガンに酷似し、発見が困難なため情報が限られているが、江戸時代以降の記録が残され、1999年以降は宮城県内と北海道(サロベツ)に最大100羽ほどが定期飛来することが明らかになった。国外では、日本へ渡るマガンの春の中継地(カムチャツカ・ハルチンスコエ湖)で1,000羽の群れが観察され、チュコト半島のマガン繁殖地近くで新たな繁殖地が発見された。これらの群れは日本の個体群と関わる可能性が高い。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
全長53-66 cm、翼開長120-135 cm、体重1.3-2.3 kgほどの小型のガン。マガンに酷似し、全身ほぼ暗褐色で上・下尾筒は白く、足は橙色、額は白く、腹に不規則な黒斑を持つ。マガン(全長65-86 cm、翼開長130-165 cm、体重1.7-3 kg)に比べ、一回り小さく、嘴は短くて淡い紅色で、額の白色帯は基部と同じ幅で頭頂まで達す(成鳥)。成鳥、幼鳥ともに目の周囲に黄色の明瞭なリングがある。マガンよりも25%足が短いことも特徴的で、マガンでは風切羽の先端が尾羽と同等か少し長い程度であるが、カリガネでは、風切羽先端が尾羽を大きく超えている。
【生活史】
日本に飛来するカリガネの繁殖地は不明であったが、国内からの渡り追跡調査が行われた結果、チャウン湾に近い森林ツンドラがそのひとつであることが判明した。ロシアの東部における繁殖地がチュコトやアナディル湾でも発見されており、おそらくそれらロシア東端の集団が伝統的に日本に飛来しているものと考えられる。繁殖環境は河川沿いの低木林やイネ科草本群落、岩場、泥炭地のくぼみに営巣する。中継地のサロベツ原野では、日中はマガンやオオヒシクイの群れと牧草地で採食。越冬地の宮城では、マガンの群れと特定地域の水田地帯で採食。マガンに比べ食物の選好性が高く(Habitat Specialist)、草丈の低い草本類を好んで採食する。主な食物は、牧草地のアルファルファやイタリアンライグラス、畦に生えているスズメノカタビラやシロツメクサなどである。夜間は、伊豆沼、蕪栗沼、長沼などにねぐらをとる。
【生息・生育環境】
主に水辺(湖沼、河川)や農耕地(水田、畑、牧草地)に生息する。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_平地部】草地,田地・畑地,湿地・湿原,河川下流域,ワンド,ため池・池沼,潟・湖・ダム湖 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域,(4)河川・湿地地域 |
【分布域】
江戸時代の文献(徳川実記、享保・元文諸国産別帳)にもカリガネの記録があり、その当時から渡来していたと推定されるが、マガンに酷似するので正確な記録が乏しく、第2次レッドリスト(1998)までは、評価対象とならなかった。江戸時代には、中国、四国、北陸地方、山形で記録され(享保・元文諸国産物帳)、江戸周辺でも8羽が捕獲されている(徳川実紀)。1877年に函館で標本1体が採取され(Seebohm 1879)、1874-1943年には16例が国内で記録されている(Austin 1949)。その他の採集地としては、北海道(別海、女満別)、本州(小川原湖、常陸鹿島、上総、手賀沼、南行徳、東京、横浜、新潟県南蒲原郡などがあり、マガンと同様分布域は広かったが、生息地の消失に伴い分布が限定されるようになったと考えられる。1999年以降、日本雁を保護する会の会員などによる調査で、宮城県北部と北海道サロベツ原野に、定期的に数十~100羽程の群れが渡来していることは判明し、その後島根県の宍道湖周辺でも25羽の群れが観察されている。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
分布域はスカンジナビア半島からロシア極東の森林ツンドラ地帯。フェノスカンジア個体群、西側主要個体群、東側主要個体群の3つの個体群があり、東側主要個体群はタイミール半島からチュコト半島にかけて繁殖し、中国や日本で越冬する。日本では、秋の渡り時期に北海道のサロベツ湿原を中継し、宮城県の伊豆沼周辺で越冬する。宮城県で越冬する個体は、伊豆沼を主なねぐらとしており、厳冬期は登米市の平筒沼にもねぐら入りする。また、島根県の斐伊川流域にも少数が越冬し、大潟村、朝日池、国仲平野、片野鴨池などでも記録されている。
【生息・生育地の現況】
渡りの時期にサロベツに出現し、越冬期に宮城県北部に生息する群れが確認されているが、それ以外の情報は殆どない。定期渡来する群れの行動圏全体は明らかにされていない。生息地の保全のためにも、国内重要生息地における環境利用、他の国内生息地の発見、移動経路の解明が望まれる。
【個体数の現況】
全世界での個体数は、24,000-40,000羽と推定されており、IUCNのレッドリストでは、危急種(Vulnerable)になった(BirdLife International 2020)。1980年代後半から1990年代前半には、中国の安徽省、江西省、江蘇省などを中心に6-7万羽が生息していたと推定されていたが、2011年には14,000-19,000羽、2020年には4,190羽と急激に減少していることが報告されている(Jia et al. 2016, Ao et al. 2020)。国内に生息する個体数については、本種がマガンの群れの中に混生するため、その正確な数の把握が困難だが、宮城県における越冬数は2000年以降増加傾向にあるとされ、2019/2020年のシーズンには、300羽を超える個体が越冬した。中国の生息地劣化に伴い、越冬地を日本にシフトしている可能性が考えられる。北海道北部のサロベツでも、秋の渡りで飛来するカリガネが増加傾向にあり(Ikawa and Ikawa 2009)、宮城県での越冬数の増加と関連も考えられる。
存続を脅かす要因
フェノスカンジア個体群、西側主要個体群については、越冬地では狩猟、生息地の消失、人為的攪乱、繁殖地では生息地の消失と捕食があげられている。東側主要個体群については情報が少ないものの、同様の要因が指摘されている。特に越冬地においては、マガンとは異なり草本により依存するため草地環境の維持が重要とされており、人為的攪乱にも影響を受けやすいため、採食地の保全管理が十分に図られる必要がある。また、国内で越冬する個体は中国北東部を渡りの中継地とすることが判明したが、生息地の保全が十分に図られていないとの指摘があるほか、ロシアでの密猟の可能性も指摘されている。
| 要因の区分 | (過去) | 湖沼開発,河川開発,草地開発,捕獲・狩猟/園芸採取,混獲・錯誤捕獲 |
|---|---|---|
| (現在) | 草地開発,その他(人為的攪乱、農法の変化) |
特記事項
山階鳥類研究所の澤氏らによる追跡調査が進展している。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | カリガネ | Anser erythropus | EN |
| 第4次 2019 | カリガネ | Anser erythropus | EN |
| 第4次 2018 | カリガネ | Anser erythropus | EN |
| 第4次 2017 | カリガネ | Anser erythropus | EN |
| 第4次 2015 | カリガネ | Anser erythropus | EN |
| 第4次 | カリガネ | Anser erythropus | EN |
| 第3次 | カリガネ | Anser erythropus | NT |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【北海道】準絶滅危惧(Nt),【岩手県】準絶滅危惧,【宮城県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【秋田県】情報不足(DD),【山形県】評価対象外,【埼玉県】絶滅(EX)(越),【千葉県】消息不明・絶滅生物(X),【新潟県】準絶滅危惧(NT),【石川県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【福井県】県域絶滅危惧Ⅰ類,【島根県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【熊本県】要注目種(AN),【鹿児島県】絶滅危惧Ⅰ類
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
Ao, P., et al., 2020. Migration routes, population status and key sites of the Eastern Palearctic Lesser White-fronted Goose Anser erythropus. Wildfowl, Special Issue No. 6: 206-243. Austin, O. L., 1949. Waterfowl of Japan. G. H. Q. supreme Commander for the Allied powers Natural resources section Report, Number118, 15. Ikawa, M. J., and H. Ikawa, 2009. Lesser White-fronted Goose Anser erythropus at Sarobetsu in northern Hokkaido, Japan: a preliminary report on numbers in autumn. Ornithological Science, 8: 131-138. 岩渕成記,1997.シリーズ「この鳥を守ろう」の現在 第23回 カリガネ-かつては日本にも群れで来ていたガン-.私たちの自然,(423): 18-21. 金山正好,1985.徳川将軍の狩猟記録 「徳川実紀」から.応用鳥類学,公益財団法人山階鳥類研究所,千葉. 環境庁,1988.過去における鳥獣分布調査について.環境庁. 環境省自然環境局,2020.モニタリングサイト1000 ガンカモ類調査 2004~2017年度 とりまとめ報告書.環境省生物多様性センター,山梨. 環境省自然環境局,2022.第52回ガンカモ類の生息調査報告書.環境省生物多様性センター,山梨. 黒田長道,1939.雁と鴨.修教社書院,東京. Tian, H., D. Solovyeva, G. Danilov, et al., 2021. Combining modern tracking data and historical records improves understanding of the summer habitats of the Eastern Lesser White-fronted Goose Anser erythropus. Ecology & Evolution, 11: 4126-4139. Wang, A., I. Damba, Q. Zhao, Y. Xie, X. Deng, R. Ga, G. Liu, Z. Xu, Y. Li, D. Gao, W. Xu, G. Chen and L. Lei Cao, 2021. Organising a juvenile ratio monitoring programme for 10 key waterbird species in the Yangtze River floodplain: analysis and proposals. Avian Research, 12: 1-13(Article number: 72).
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Anser erythropus has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Anser erythropus is listed as EN under criteria D.
D. Population size estimated to number fewer than 250 mature individuals.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Grassland, Farmland, Wetland, Lower river basin, Inlet, Reservoir/Pond, Lagoon/Lake/Dam |
|---|---|
| Threat types | Grassland development, Other |
| Law designation status for conservation | Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 牛山克巳(宮島沼水鳥・湿地センター) |
| Author: | Katsumi Ushiyama |
| 協力者: | 嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団) |
公開年月:2026年3月
©池田昇平(湖北野鳥センター)