評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | ペリカン目 | 科名 | トキ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Pelecaniformes | Family | Threskiornithidae |
| 和名 | トキ | ||
| 学名 | Nipponia nippon (Temminck, 1835) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: B1ab+2ab C2a(ii)
| 基準A: ― | 基準B: EN | 基準C: EN | 基準D: ― | 基準E: ― |
B1+2.出現範囲が5000 km²未満かつ生息地面積が500 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。 【地点数】5地点以下 b) 出現範囲、生息地面積、生息地の質、生息地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 トキの野生復帰事業により、2008年以降、毎年30羽強が放鳥され、保全活動によって個体数は増加している。しかし、トキの主要な生息環境である水田作付面積は6000 ha(2008年)から5000 ha(2020年)以下に減少し、今後も佐渡市の人口減少・高齢化により中山間地の水田が耕作放棄されていくことが予想されている。これに伴って、トキの餌生物を増やす取り組みであるトキ認証米制度の作付水田も、2012年の1367 haから2020年には1044 haへと減少を続けている。これによりトキの餌場環境は今後、継続的に劣化し環境収容力が減少すると予想され、対策の無い状況では将来の個体数減少が予期される。 C.個体群の成熟個体数が2,500未満であると推定される。 【推定根拠】 2024年12月末時点で、成熟個体数は336羽と推定されている。 加えて、以下の2. かつa (ii) に該当する事由がある。 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測される。 【判断理由】 環境省のトキ野生復帰事業による継続的な放鳥により、再導入個体群は順調に増加してきているが、繁殖成績は2017年をピークとして低下し続けており、将来的に個体群の増加が減少に転じると予測される。 a) 個体群構造が次に該当 ii) 1つの下位個体群中に95%以上の成熟個体が属している 【判断理由】 現在、本州への分散個体は記録されているが、佐渡島以外に繁殖個体群は存在しない。
3. 概要
かつては、ロシアのウスリー地方から中国南部、朝鮮半島、日本、台湾にかけて分布していた。江戸時代には日本国内でも全国に分布していたと考えられる。しかし、明治維新後の銃猟解禁により明治から大正にかけて激減し絶滅が心配され、昭和初期に能登半島、佐渡島、隠岐の島の3地域で個体群が存続するのみになり、1940年には100羽程度が生息するだけであった。その後、トキの生息個体数は徐々に減少し佐渡島以外の個体群は絶滅した。1981年に佐渡島に生き残っていた最後の5羽のトキを捕獲し、野生絶滅に至った。1999年に中国から贈呈された2羽のトキとその後に来日した5羽をファウンダーとする飼育下繁殖が順調に進み、佐渡島で2008年から再導入が実施された。2012年に最初に野外で生まれた個体が2014年に成熟年齢に達し、成熟個体が出現して5年を経過した2019年に野生絶滅の状態を脱したと評価された。2024年9月までに延べ521個体が放鳥され、現在、佐渡の野生下には、放鳥個体133羽、野外生まれ個体443羽の計576個体が生息すると推定されている(2024年12月末)。野生下の成熟個体数は、2014年に13羽であったが、2022年に推定数が250羽を越え、2024年末には336羽と推定されている。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
全長70-80 cm。オスはメスより大きいが、顕著な性的二型はない。嘴は黒色で長く下に湾曲し先端が赤い。顔には羽毛がなく、朱色の皮膚が露出し、幼鳥は赤味が少ない。脚は頭部より薄い朱色。非繁殖期の羽色は、薄いピンク色がかった白色。繁殖羽への羽色変化は換羽ではなく頭頚部の皮膚から剥離される黒色の脂質を水浴後の羽毛にこすりつけることにより着色し、首から背中にかけて雌雄とも濃い黒灰色になる。この羽色変化を化粧色という。抱卵が始まるとこすり付け行動をしなくなり、背中の灰色は薄くなっていく。換羽期には換羽が終わった羽が白くなるので斑状になっていき、換羽が終わる9月には鴇色が戻ってくる。繁殖羽に替わるのは2歳以上の個体で、1年目の若鳥は繁殖期も白いままの個体が多い。
【生活史】
水田地帯に生息し、ドジョウ、カエル、貝類、ミミズ、節足動物等を食べる。一夫一妻で繁殖する。繁殖羽になる2〜3月に求愛が始まり、3〜5月にかけて里山の樹上で造巣を開始する。つがい関係が固定するまで数年を要し、その間はつがい相手を頻繁に交代する。隔日で2〜5個(中央値3個)を産卵し、卵は28日間の抱卵で孵化する。雌雄交代で30~35日間抱卵し、すべての雛が孵化するまで1週間程度を要する(非同時孵化)。巣内育雛期間は35〜40日。巣立ち後、2〜4週間は親鳥から給餌される。成熟年齢は2歳。1回繁殖。繁殖期はじめに繁殖失敗した場合は再営巣する。繁殖が終わると換羽が始まり、ねぐらで群れるようになる。繁殖期はペアもしくは単独行動をするが、非繁殖期には群れで行動する。飼育下の最長寿命は35歳を越えるが、野外での寿命は19歳以下である。
【生息・生育環境】
繁殖期には、営巣林と水田を往復する。里山や屋敷林の高木(15〜35 m)に営巣し、水田や畦、水田の近くの草地、水路で採餌をする。かつて佐渡島では、山間部の棚田や谷間の渓流でも採餌を行っていたといわれる。中国の洋県でも、再発見当時は山間部の谷戸地形の景観の水田で採餌をしていたが、個体数が増加するにつれて低地の人家周辺の高い庭木に営巣することもある。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_平地部】森林,草地,田地・畑地,湿地・湿原 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域 |
【分布域】
過去の文献から、江戸時代末期には、日本海側では島根県から北海道まで、太平洋側は愛知県以北に分布していたと考えられる。しかし、明治維新後の銃猟解禁により明治から大正にかけて激減し絶滅したのではと心配されたが、昭和初期に能登半島、佐渡島、隠岐の島の3地域で個体群が存続していることが確認された。1940年代初期にこの3地域に100羽程度が生存していたと考えられている。かつては、ロシアのウスリー地方から中国南部、朝鮮半島、日本、台湾にかけて分布していた。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
2008年から佐渡島で再導入が開始され、2025年6月までに延べ530個体が放鳥された。現在、佐渡の野生下には、放鳥個体133羽、野外生まれ個体443羽の計576個体が生息すると推定されている(2024年12月末)。さらに佐渡島で放鳥された個体(主に雌個体)が繁殖期に1〜2羽本州へ飛来している。感染症のリスク分散のため、日本国内6か所(佐渡島2か所、東京、長岡、石川、島根)の飼育施設で、計168羽が分散飼育されている(2025年7月時点)。中国では、陝西省洋県に野生個体群が分布し、陝西省楼観台・寧陝県、河南省、浙江省等でも再導入が実施されている。中国では、野生下に約7000羽が生息し、約2000羽が飼育されている(2024年末時点)。韓国でも再導入が実施されている。
【生息・生育地の現況】
トキ野生復帰事業によるトキの生息地環境整備により、佐渡島全域で農薬・化学肥料を50%以上減らした稲作が実施されていて、水田の生物多様性が豊かになっている。また、トキの餌場のためのビオトープも整備されている。一方で、トキの野生復帰事業が開始された2008年当時6000 haあった耕作水田のうち、一部で中山間地の水田の放棄が進行していて、現在では耕作水田面積が5000 haを割り込んでいる。また、ひとつの営巣林にトキが集中するようになり、個体間干渉と捕食者の誘引により繁殖成績が低下してきている。
【個体数の現況】
個体数は、モニタリングで得られた繁殖・生存個体の情報から、ベイズ統計を使った個体群統合モデルによって推定されている。野生下には、放鳥個体133羽、野外生まれ個体443羽の計576個体が生息していると推定されている(2024年12月末)。2012年以降、毎年、野生下で巣立ちが確認され、2012年生まれの個体が成熟した2014年に初めて野生下の成熟個体が出現した。野生下の成熟個体数の推定値(最小値)は、2014年に3羽、2015年に9羽、2016年に28羽、2017年に48羽、2018年に83羽、2019年に143羽、2020年に188羽、2021年に240羽、2022年に281羽、2023年に298羽、2024年に334羽と増加している。成熟個体の95%信頼限界の下限推定値が250羽を越えたのは2022年以降で、まだ、3年しか経過していない。
存続を脅かす要因
耕作放棄地の増加による水田の減少、里山の竹林侵入、国内外来種であるテンによる捕食、鳥インフルエンザなどの感染症の脅威。
| 要因の区分 | (過去) | 河川開発,湿地開発,圃場整備,農薬汚染/化学物質汚染,捕食(外来種による),管理放棄,分布・産地局限,近交弱勢 |
|---|---|---|
| (現在) | 湿地開発,圃場整備,感染症/病原菌,捕食(外来種による),管理放棄,近交弱勢 |
特記事項
保全依存個体群である。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | トキ | Nipponia nippon | CR |
| 第4次 2019 | トキ | Nipponia nippon | CR |
| 第4次 2018 | トキ | Nipponia nippon | EW |
| 第4次 2017 | トキ | Nipponia nippon | EW |
| 第4次 2015 | トキ | Nipponia nippon | EW |
| 第4次 | トキ | Nipponia nippon | EW |
| 第3次 | トキ | Nipponia nippon | EW |
| 第2次 | トキ | Nipponia nippon | EW |
| 第1次 | トキ | Nipponia nippon | E |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【北海道】絶滅(Ex),【青森県】絶滅野生生物(EX),【岩手県】絶滅,【埼玉県】絶滅(EX)(繁),【千葉県】消息不明・絶滅生物(X),【神奈川県】不明種(繁殖期)、不明種(非繁殖期),【新潟県】野生絶滅(EW),【富山県】絶滅+野生絶滅(EX+EW),【石川県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【福井県】県域絶滅,【長野県】野生絶滅(EW),【島根県】絶滅(EX),【山口県】絶滅(EX),【福岡県】絶滅(EX)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種,保護増殖事業,国指定特別天然記念物,鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
Nagata, H. and S. Yamagishi, 2013. Re-introduction of crested ibis on Sado Island, Japan. In: Global Reintroduction perspectives: 2013. Further case-studies from around the globe: 58-62, Ed. P. S. Soorae, Gland, Switwerland, IUCN/SSC Re-introduction Specialist Group (RSG) and Abu Dhabi, UAE:Environment Agency-Abu Dhabi., pp. 58-62. 永田尚志,2012.トキの野生復帰の現状と展望.野生復帰,2: 11-16. 永田尚志,2019.野生復帰から10年でみえてきた放鳥トキの生態.國立公園,No.770: 8-11. Okahisa, Y. and H. Nagata, 2022. Evaluation of ongoing Crested Ibis (Nippoinia nippon) reintroduction using an integrated population model and Baysian population viability analysis. Ibis, 164: 1104-1122. 岡久雄二・永田尚志・尾崎清明,2017.標識再観察法によるトキNipponia nipponの個体数推定.山階鳥類学雑誌,48: 1-13. 山階芳麿・中西悟堂,1983.トキ 黄昏に消えた飛翔の詩.教育社,東京.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Nipponia nippon has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Nipponia nippon is listed as EN under criteria B1ab+2ab C2a(ii).
B1+2. Extent of occurrence estimated to be less than 5,000 km² AND area of occupancy estimated to be less than 500 km², and estimates indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at five or fewer locations. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals C. Population size estimated to number fewer than 2,500 mature individuals and: 2. A continuing decline, observed, projected, or inferred, in numbers of mature individuals and: a. Population structure in the form: (ii) at least 95% of mature individuals in one subpopulation.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Forest, Grassland, Farmland, Wetland |
|---|---|
| Threat types | Wetland development, Field preparation, Disease, Predation (by alien species), Abandonment of management, Inbreeding depression |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. Conservation and reproduction programs. Nationally Designated Special Natural Monument. Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 永田尚志(新潟大学) |
| Author: | Hisashi Nagata |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©永田尚志(新潟大学・佐渡自然共生科学センター)
©永田尚志(新潟大学・佐渡自然共生科学センター)