評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | タカ目 | 科名 | タカ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Accipitriformes | Family | Accipitridae |
| 和名 | イヌワシ | ||
| 学名 | Aquila chrysaetos japonica Severtsov, 1888 | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: C2a(i)
| 基準A: ― | 基準B: ― | 基準C: EN | 基準D: ― | 基準E: ― |
C.個体群の成熟個体数が2,500未満であると推定される。 【推定根拠】 日本イヌワシ研究会の2022年の報告によると、2020年のつがい数は193程度、推定個体数は約450羽である。 加えて、以下の2. かつa (i) に該当する事由がある。 2. 成熟個体数の継続的な減少が観察、もしくは推定・予測される。 【判断理由】 有効つがい数は、1986年時点で340、2020年時点で193と減少している。繁殖成功率は、1981~85年は47.2%であったが、1991年から急激に低下し、現在までほとんど20%前後の低い状態が続いている。これらの原因は戦後の大規模な落葉広葉樹林の伐採とスギ・ヒノキ植林によるハンティング場所の激減であると思われるが、茅刈・焼畑・炭焼き・放牧等の山間部での人為的に創出されてきた開放地の消失もハンティング場所減少の大きな要因であり、これは現在も継続している。 a) 個体群構造が次に該当する。 i) 250以上の成熟個体を含む下位個体群は存在しない。 【判断理由】 イヌワシの主な生息地は本州の中部以北であり、複数の地域で生息している。2020年時点の全国のつがい数は193程度であるが、250羽以上の成熟個体を含む下位個体群は存在しない。さらに、つがい数の激減と繁殖成功率の低下により、分散個体は極めて少なく、個体群間の交流はほとんどなくなっている。
3. 概要
全国に193ペア、450羽程度の生息が推定されているが、生息場所は限定的で、九州・四国では定着しているつがいは確認されておらず、ほぼ絶滅状態にある。1981年から2020年までにペアが消失した場所は121ヶ所にも及ぶ。繁殖成功率も1981~85年が47.2%であったが、1991年から急激に低下し、ほぼ20%前後で推移している。絶滅の危機に至った主要因は1950年代からの拡大造林政策による人工林面積の急激な拡大と社会の変化による森林利用の激減によるハンティング場所の消失と考えられる。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
日本の山岳地帯に生息・繁殖する最大の猛禽で、翼は板状に長く、クマタカのような丸みを帯びていない。全長はオス:73~86 cm、メス:81~95 cm、翼開長はオス:170~190 cm、メス:180~210 cm、体重は3.2~5.5 kg。成鳥は全身が暗褐色で、年齢が進むと後頭部は黄金色を帯びる。幼鳥は全身が黒っぽく、両翼と尾羽の基部に白斑がある。脚は羽毛に覆われ、爪は長く鋭い。
【生活史】
山岳地帯の開放地、落葉広葉樹林等で主にノウサギ、ヤマドリ、ヘビを捕食していたが、近年はこれら獲物動物の減少に伴い、他の中小動物やシカ等の死体を食べることも多い。周年、ペア関係を維持し、繁殖活動は10月頃から始まる。営巣場所は急峻な崖地の岩棚が多いが、大木に営巣することもある。産卵時期は1月中旬から2月下旬。1腹卵数は通常2卵(1~3卵)。抱卵期間は42日前後で主にメスが抱卵する。2番目に孵化した雛はほとんどが孵化後10日以内に死亡する。育雛期間は約70~90日で、5月上旬~7月上旬(主に6月上旬)に巣立ちする。巣立ち後1ヶ月位は営巣場所付近に滞在し、親からの給餌を受ける。その後、親についてハンティング場所に出かけるようになり、冬には独立する。繁殖年齢に達するのは概ね4歳と考えられている。
【生息・生育環境】
生息環境は、落葉広葉樹林等の中小動物の多い森林が広がり、かつハンティング可能な自然裸地、草原、石灰岩の岩場、多雪地や高山風衝地の低木自然林等の比較的開けた環境が存在している山岳地帯である。イヌワシは森林内を飛行することができないため、スギ・ヒノキ人工林や常緑広葉樹の繁茂した森林地帯には生息できない。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_中標高地】森林,草地,岩壁・ガレ場(石灰岩地等) |
|---|---|
| 国土地域区分 | (1)奥山自然地域 |
【分布域】
種としては、北半球(ユーラシア大陸、アフリカ北部、北アメリカ大陸)の高緯度地域に広く分布する。本亜種は、日本および朝鮮半島に分布する。日本は分布域の南限に近い。国内では北海道から九州までの山岳地帯に留鳥として生息していたが、九州・四国では生息場所は限られていたものと思われる。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
北海道から九州までの山岳地帯に生息していたが、現在は九州・四国ではほぼ絶滅状態であり、主な生息地は本州の中部以北である。北海道では複数の地域で生息が確認されているものの、生息密度は極めて低く、どの程度のペアが生息しているのかは不明である。
【生息・生育地の現況】
国内の生息環境は戦後の大規模な落葉広葉樹林の伐採とスギ・ヒノキの植林によって激変した。1986年以降、生育して密生した人工林が増加し、かつ伐採地が減少したことに加え、燃料革命と社会生活の変化によって、人為的に創出されてきたハンティング場所が激減した。
【個体数の現況】
日本イヌワシ研究会の2022年の報告によると、2020年のつがい数は193程度、推定個体数は約450羽である。1981年から2020年までにペアが消失した場所は121ヵ所にも及ぶ。繁殖成功率は1981~85年は47.2%であったが、1991年から急激に低下し、現在までほとんど20%前後の低い状態が続いている。
存続を脅かす要因
日本イヌワシ研究会の2022年の報告によると、繁殖失敗155例のうち、自然的要因は60例、複合的要因は79例、人為的要因は16例であった。主な原因は生息環境の変化による餌不足、後継個体の不足としている。1991年以降のペア数の減少と繁殖成功率の急激な低下の主要因は戦後の大規模な落葉広葉樹林の伐採とスギ・ヒノキ植林によるハンティング場所の激減であると思われるが、茅刈・焼畑・炭焼き・放牧等の山間部での人為的に創出されてきた開放地の消失もハンティング場所減少の大きな要因である。
| 要因の区分 | (過去) | 石灰採掘,スキー場,土地造成,交通インフラ建設,ダム・河川工作物建設,捕獲・狩猟/園芸採取,管理放棄,遷移進行・植生変化/自然遷移 |
|---|---|---|
| (現在) | 森林伐採,石灰採掘,交通インフラ建設,ダム・河川工作物建設,管理放棄,遷移進行・植生変化/自然遷移,発電施設建設 |
特記事項
特になし
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第4次 2019 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第4次 2018 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第4次 2017 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第4次 2015 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第4次 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第3次 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第2次 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | EN |
| 第1次 | イヌワシ | Aquila chrysaetos japonica | E |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【北海道】情報不足(Dd),【青森県】最重要希少野生生物(Aランク),【岩手県】絶滅危惧Ⅰ類,【宮城県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【秋田県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【山形県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【福島県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【茨城県】絶滅危惧ⅠB類,【栃木県】絶滅危惧Ⅰ類(Aランク),【群馬県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【埼玉県】情報不足(DD)(繁・越),【新潟県】絶滅危惧Ⅰ類(EN),【富山県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【石川県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【福井県】県域絶滅危惧Ⅰ類,【山梨県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【長野県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【岐阜県】絶滅危惧Ⅰ類,【静岡県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【三重県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【滋賀県】絶滅危惧種,【京都府】絶滅寸前種,【兵庫県】Aランク,【奈良県】絶滅寸前種,【鳥取県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【島根県】情報不足(DD),【岡山県】絶滅危惧Ⅰ類,【広島県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【徳島県】絶滅(EX),【熊本県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【大分県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【宮崎県】絶滅危惧ⅠA類(CR-d)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種,保護増殖事業,国指定天然記念物,鳥獣保護管理法,都道府県条例指定種【長野県・鳥取県】
5. 参考⽂献
環境庁自然保護局野生生物課,1996.猛禽類保護の進め方-特にイヌワシ、クマタカ、オオタカについて-.環境省自然保護局,東京.87pp. 日本鳥類保護連盟,2004.希少猛禽類調査報告書(イヌワシ編).日本鳥類保護連盟. 日本イヌワシ研究会,2001.全国イヌワシ生息数・繁殖成功率調査報告(1996-2000).Aquila chrysaetos,No.17: 1-9. 日本イヌワシ研究会,2003.イヌワシにおける繁殖失敗の原因.Aquila chrysaetos,No.19: 1-13. 日本イヌワシ研究会,2007.全国イヌワシ生息数・繁殖成功率調査報告(2001-2005).Aquila chrysaetos,No.21: 1-7. 日本イヌワシ研究会,2022.全国イヌワシ生息数・繁殖成功率調査報告(1981-2020).Aquila chrysaetos,No.28: 1-20. Watson, J., 2010. THE GOLDEN EAGLE Second edition. pp. 41-43, 175-176. Yale Univ. Press, London. 山﨑亨,1996.タカ目イヌワシ.日本動物大百科3 鳥類Ⅰ,pp. 164-165.平凡社,東京. 山﨑亨,2006.日本の事例.ニホンイヌワシ.ジェフ・ワトソン(著),山岸哲・浅井茂樹(訳),イヌワシの生態と保全,pp. 359-372.文一総合出版,東京. 山﨑亨,2010.イヌワシ.野生動物保護の事典(野生生物保護学会編),朝倉書店,pp. 479-482. 山﨑亨,2013.日本のタカ学(第1章イヌワシとクマタカの分布と生息場所利用).東京大学出版会.pp. 15-36.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Aquila chrysaetos japonica has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Aquila chrysaetos japonica is listed as EN under criteria C2a(i).
C. Population size estimated to number fewer than 2,500 mature individuals and: 2. A continuing decline, observed, projected, or inferred, in numbers of mature individuals and: a. Population structure in the form: (i) no subpopulation estimated to contain more than 250 mature individuals.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Mid-altitude area】Forest, Grassland, Cliff/Talus area (e.g. limestone area) |
|---|---|
| Threat types | Logging and wood harvesting, Limestone mining, Transportation infrastructure construction, Dam/River structures construction, Abandonment of management, Successional progression/Vegetation change/Natural succession, Power plant construction |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. Conservation and reproduction programs. Nationally Designated Natural Monument. Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. Prefectural Ordinance-Designated Species【Nagano・Tottori】. |
| 執筆者: | 山﨑亨(アジア猛禽類ネットワーク) |
| Author: | Toru Yamazaki |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©井上剛彦
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