評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報 日本固有
| ⽬名 | キツツキ目 | 科名 | キツツキ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Piciformes | Family | Picidae |
| 和名 | オーストンオオアカゲラ | ||
| 学名 | Dendrocopos leucotos owstoni (Ogawa, 1905) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧Ⅱ類(VU) 判定基準: A3
| 基準A: VU | 基準B: ― | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
A3.今後10年間もしくは3世代のどちらか長期間を通じて、30%以上の減少があると予測される。 【比較年】 10年(世代時間不明) 【近年の状況】 2019年のオーストンオオアカゲラの繁殖分布情報は、小高ら(2022)により、出現範囲は860 km²、陸域面積は659 km²、森林面積は583 km²であった。このうち、常緑広葉樹林は401 km²、リュウキュウマツ林は134 km²、その他森林は49 km²であった。繁殖分布調査が行われた2019年前後は、松枯れ被害による枯死木が大量に発生しており、リュウキュウマツ林は好適な生息地となり、島の森林全域に生息できる状況となったと考えられる。リュウキュウマツ林に限らず、道路沿いや伐採地周辺のリュウキュウマツも枯死し利用可能な状態だったことから、この時期の有効な生息地面積は島の全森林域の583 km²程度と考えられる。 【今後の状況予測】 リュウキュウマツ林や若齢の二次林においてマツが枯死した後は、短期的に立枯れ木や倒木が増える様子が観察されている。しかし、これらはオーストンオオアカゲラにとって一時的に利用可能な資源と考えられ、今後本種にとって営巣や採餌可能な枯死木は大幅に減ると考えられる。2019年の時点で奄美大島の全域に繁殖分布域が広がっていた、リュウキュウマツ林や人里近くの松の枯れ木の採餌や営巣利用は、松枯れ被害による一時的なものと考えられる。リュウキュウマツ枯死木の腐朽速度は明らかではないが、枯死後10年程度で採餌や営巣に利用できなくなるものと仮定すると、2019年に有効な生息地とした全森林面積583 km²のうち、リュウキュウマツ林134 km²やその他森林49 km²が不適な生息地になり、約10年後の有効な生息地面積は常緑広葉樹林401 km²の一部になると考えられる。
3. 概要
奄美大島のみに繁殖分布するオオアカゲラの固有亜種で、他の亜種と比較して体が大きく、著しく暗色である。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは独立種Dendrocopos owstoniと分類されている。老齢の常緑広葉樹林を主要な生息地とするが、近年、松枯れ被害を受けたリュウキュウマツ林での採餌や営巣が観察されるようになり、人里、海岸付近での観察事例も多い。松枯れ被害の収束後、分布域や個体数が一時的に減少する可能性がある。繁殖分布域の継続的なモニタリングが必要である。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
全長約28 cm、翼長152.5±2.9 mm(n=22)。オオアカゲラの他の亜種と比較して体サイズが大きく、体色が著しく暗色である。メスの頭頂部は黒色で、雄や幼鳥の頭頂部は赤色である。
【生活史】
留鳥。4月から産卵期に入り、5月に巣立つ個体が多い。丈夫な嘴で、倒木や立枯れ木、生立木の枯死部などをつつき、中にいるカミキリムシの幼虫などを捕食することが多い。幹や葉の表面にいる節足動物を捕食することもあり、タブノキの実などの植物質の餌を食べることもある。スダジイをはじめとする大径木の幹に自ら巣穴を掘り営巣することが多い。リュウキュウマツの立枯れ木を利用した営巣も観察される。雌雄ともに子育てに参加し、ヒナへの給餌、抱卵を行う。夜間の抱卵は、ほかのキツツキと同様に雄が行う。つがい関係や寿命に関する調査は行われていない。
【生息・生育環境】
奄美大島の内陸部に残された、採餌や営巣に適した枯死木や大径木の多い老齢の常緑広葉樹林が主要な生息地である。主な営巣木はスダジイの大径木であるが、人里近くや海岸沿いの森林では、ウラジロエノキやセンダン、リュウキュウマツの立ち枯れ木などを利用した営巣が観察されている。連続した老齢の広葉樹林を保全することが本種の保全上重要と考えられるが、農耕地に隣接した森林で営巣する個体は、防風林など、孤立した森林も採餌場所として利用することが明らかとなっている。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_中標高地 低標高地】森林 【陸域_平地部】森林 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (1)奥山自然地域,(2)里地里山・田園地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
奄美大島の全域で観察されるが、内陸部の常緑広葉樹林が主要な生息地であり、2000年前後までは北東部の笠利半島での観察は少なかった。加計呂麻島での観察事例があるが、継続的な観察や繁殖の記録はない。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
奄美大島の全域で観察される。加計呂麻島では、観察記録や食痕の記録はあるが、継続的な観察や繁殖の記録はない。近年、奄美大島内では、海岸付近や観察事例の少なかった笠利半島での観察例が増えている。
【生息・生育地の現況】
奄美大島の老齢の常緑広葉樹林が主要な生息地で、若齢林やリュウキュウマツ林は好適な生息地ではないと考えられる。本土復帰以降の1960年代から昭和時代に渡って、大径木のある老齢の常緑広葉樹林の大面積皆伐が行われた。1990年代になって伐採面積が減少し、森林の蓄積は回復しつつある。2000年代に加計呂麻島から奄美大島に広がったとされる松材線虫病(マツノザイセンチュウによる樹木病害)による松枯れ被害が広がり、リュウキュウマツの枯死木が大量に発生した。これらのリュウキュウマツの倒木や立枯れ木が、採餌場所や営巣場所として利用されるようになり、観察の少なかった海岸付近や笠利半島での観察例が増えている。奄美大島全域において、松枯れ被害により、一時的に好適な生息環境が増加した可能性がある。大量に枯死したリュウキュウマツの腐朽が進み、利用可能な枯死木量が減少すると、生息適地が減少し、一時的に分布域が縮小する可能性がある。
【個体数の現況】
海岸付近や笠利半島での観察事例が増え、近年個体数が増加傾向にある可能性がある。個体数増加の要因として伐採面積の減少による森林の蓄積の回復と、2000年代に広がった松枯れ被害により、リュウキュウマツの枯死木が大量に発生したことで、オーストンオオアカゲラの利用可能な枯死木量が増加したことが考えられる。奄美大島における松枯れ被害は収束傾向にあり、今後、利用可能な枯死木が減少することで、個体数が一時的に減少することが予測される。
存続を脅かす要因
奄美大島のみに繁殖分布し、主要な生息地は奄美大島の老齢の常緑広葉樹林であるため、森林伐採や分布の局限が要因として挙げられる。さらに、ノネコ等の外来種およびハシブトガラス等在来種による捕食も要因として挙げられる。
| 要因の区分 | (過去) | 森林伐採,捕食(在来種による),分布・産地局限 |
|---|---|---|
| (現在) | 森林伐採,捕食(外来種による),捕食(在来種による),分布・産地局限 |
特記事項
オーストンオオアカゲラは、他のオオアカゲラと明瞭に区別できる形態を持つ日本固有の亜種(独立種とする見解もある)であり、奄美大島のみに唯一の繁殖個体群が分布する。ミトコンドリアDNAを対象とした分子系統解析では他のオオアカゲラ亜種との置換率が低く、中琉球が海により隔離された更新世後期よりも最近の、最終氷期の頃に分化したと推定される。 これまで本種の奄美大島全域における系統だった分布調査は実施されてこなかったが、2019年に、地域住民の参加による繁殖分布調査が実施された。2000年代に奄美大島で広がった松枯れ被害により、現在、本種の個体数及び分布域は一時的に増加している可能性がある。奄美群島国立公園の指定、世界自然遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の登録により、奄美大島(712 km²)では、脊梁部の森林(約116 km²)が保護区(遺産登録地)となった。しかし、奄美大島の世界自然遺産地域の緩衝地帯や周辺管理地域(合計約596 km²)では、今後も開発が行われ生息環境が悪化する可能性がある。また、松枯れ被害の収束後、個体数や分布域が減少する可能性も指摘されている。島嶼固有の鳥類個体群は絶滅しやすいことから、本種の繁殖分布について慎重にモニタリングする必要がある。 在来種ハシブトガラスによる捕食やイエネコによる捕食の影響について指摘されている。ハシブトガラスによる捕食は、森林の分断化により増加する可能性が指摘されており、イエネコは人による餌付けにより、野生動物への捕食被害が増えるとされている。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第4次 2019 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第4次 2018 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第4次 2017 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第4次 2015 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第4次 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第3次 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | VU |
| 第2次 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | EN |
| 第1次 | オーストンオオアカゲラ | Dendrocopos leucotos owstoni | E |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【鹿児島県】絶滅危惧Ⅰ類
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種,国指定天然記念物,鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
奄美野鳥の会,2009.奄美の野鳥図鑑.奄美野鳥の会,pp. 336.文一総合出版,東京. 藤井幹・鳥飼久裕・松永聡美・藤浦芳江・小高信彦,2023.奄美大島に固有のオーストンオオアカゲラの行動圏に関する事例.日本鳥学会2023年度大会講演要旨集. 石田健・樋口広芳,1989.オーストンオオアカゲラDendrocopos leucotos owstoniの分類および形態上の特徴.昭和63年度環境庁特殊鳥類調査,pp. 125-140.環境庁,東京. 石田健・金城道男・村井英紀,1989.オーストンオオアカゲラ Dendrocopos leucotos owstoniの分布、生態および保護.昭和63年度環境庁特殊鳥類調査,pp. 89-124.環境庁,東京. 石田健・植田睦之・金井裕,1994.オーストンオオアカゲラのドラミングに基づく生息密度の推定.平成5年度希少野生動植物種等生息状況調査報告書,pp. 69-74.環境庁,東京. 石田健・植田睦之,1995.奄美大島におけるオーストンオオアカゲラの生息状況.平成6年度希少野生動植物種生息状況調査 奄美大島希少鳥類生息状況調査報告書,pp. 25-40.環境庁,東京. 石田健,2014.オーストンオオアカゲラ.環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編),2014.日本の絶滅のおそれのある野生生物 -レッドデータブック2014- 2 鳥類,株式会社ぎょうせい,東京.pp. 208-209. 鹿児島県環境林務部自然保護課,2016.改訂・鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 動物編 -鹿児島県レッドデータブック2016-.渕上印刷株式会社,鹿児島.401pp. 小高信彦・赤井慎太・東竜一郎・石原鈴也・川口秀美・木元侑菜・久高将洋・迫田拓・関伸一・渡久地豊・鳥飼久裕・永井弓子・平城達哉・寛山一郎・水田拓・八木橋勉・山室一樹,2022.沖縄島北部,奄美大島,徳之島における鳥類の繁殖分布と世界自然遺産のゾーニング.九州森林研究,75: 63-70. 小高信彦,2015.南の島の希少なキツツキと外来の樹木病虫害-森林の多面的機能に配慮した枯死木管理に向けて-.九州の森と林業,114: 1-3. 小高信彦,2016.第9章 オーストンオオアカゲラとノグチゲラ・奄美群島と沖縄島における固有鳥類の分類と保全について.水田拓(編著),奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性,pp. 156-173.東海大学出版,神奈川. 小高信彦,2019.笠利半島におけるオーストンオオアカゲラの営巣記録.あまみやましぎ,119: 9-14. Ogawa, M., 1905. Notes on Mr. Alan Owston's collection of birds from the islands lying between Kiushu and Formosa. Annot. Zool. Jpn. 5: 175-232. Pons, J. M., D. Campión, G. Chiozzi, A. Ettwein, J. L. Grangé, Ł. Kajtoch, T. D. Mazgajski and J. Fuchs, 2021. Phylogeography of a widespread Palaearctic forest bird species: The White‐backed Woodpecker (Aves, Picidae). Zoologica Scripta, 50(2): 155-172. Sugimura, K., 1988. The role of government subsidies in the population decline of some unique wildlife species on Amami Oshima, Japan. Environmental Conservation, 15: 49-87. 植田睦之・山口恭弘,1997.ルリカケス・オーストンオオアカゲラ・カラスバトの環境選好性.Strix,15: 69-74. 谷津信一・谷津靖代,2009.加計呂麻島におけるオーストンオオアカゲラ発見顛末.あまみやましぎ,pp. 14-16.奄美野鳥の会.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Dendrocopos leucotos owstoni has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Dendrocopos leucotos owstoni is listed as VU under criteria A3.
A. Reduction in population size based on any of the following: 3. A population size reduction of ≥30%, projected or suspected to be met within the next 10 years or three generations, whichever is the longer (up to a maximum of 100 years).
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Mid-altitude area, Low-altitude area】Forest 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Forest |
|---|---|
| Threat types | Logging and wood harvesting, Predation (by alien species), Predation (by native species), Limited distribution |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. Nationally Designated Natural Monument. Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 小高信彦(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所) |
| Author: | Nobuhiko Kotaka |
| 協力者: | 鳥飼久裕 |
公開年月:2026年3月
©鳥飼久裕(奄美野鳥の会)
©鳥飼久裕(奄美野鳥の会)