評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | カモ目 | 科名 | カモ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Anseriformes | Family | Anatidae |
| 和名 | オオヒシクイ | ||
| 学名 | Anser fabalis middendorffii Severtsov, 1873 | ||
2. カテゴリー判定: 準絶滅危惧(NT) 判定基準: ②
| 基準A: ― | 基準B: ― | 基準C: ― | 基準D: VU未満 | 基準E: ― |
生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。 具体的には、分布域の一部において、次の傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 ②生息条件が悪化している。 【判断理由】 本亜種の越冬地のひとつである九頭竜川下流域では1980年頃には約2,000羽が観察されていたが、2010年代前半には数十羽から200羽程度しか記録されなくなり、餌になっていたマコモが減少したことがその要因のひとつと考えられる。生息地の多くは鳥獣保護区等で保護が図られているものの、全体的に本亜種が好むマコモ・ヒシ等が繁茂する湿地環境の減少または劣化が見られる。 なお、カムチャツカ半島の一部の繁殖地は開発圧にさらされており、地域繁殖集団への影響が懸念されているほか、カムチャツカ半島の重要な生息地において狩猟が解禁となり、交通アクセスもよくなったことから狩猟圧の増加が懸念されている。
3. 概要
カムチャツカ半島で繁殖し、国内では新潟県、石川県、福井県、滋賀県など主に日本海側で越冬する大型のガン。越冬環境としてはヒシやマコモが生育する湖沼や河川に依存し、分布は限られている。渡りの中継地としては、北海道のサロベツ原野や十勝川下流域、秋田県の八郎潟があるが、近年では八郎潟で越冬する個体も確認されるようになっている。1970年代には個体数を減らし、絶滅の危機にあった。近年では1万羽程度に回復したが、繁殖地の開発と狩猟、渡りの中継地や越冬地の環境改変などのリスクにさらされている。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
ガン類では最大級で、全長は89-98 cm、体重はオスで5.1 kg、メスで4.6 kgほど。全身ほぼ暗褐色。嘴は黒色で、先端近くに橙色の帯がある。脚は橙色。亜種ヒシクイ(Anser fabalis serrirostris)に比べ本亜種は嘴が長くて薄く、首も長く、湿地での採食に適した形態を持つ。
【生活史】
カムチャツカ半島のタイガ地帯で繁殖。繁殖期は5月上旬からで、産卵数は4~7卵、6月中旬に孵化する。8月下旬には北海道の中継地で見られるようになり、10月下旬までには本州の越冬地に到着する。
【生息・生育環境】
主に水辺(湖沼、河川)に生息し、亜種ヒシクイに比べて農耕地の利用は少ない。抽水域にマコモが生育するような浅い湖沼を好み、マコモの根やヒシの実を採食するが、河川も好んで利用する。農地では、デントコーン畑や水田を利用する。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_平地部】田地・畑地,湿地・湿原,河川下流域,ワンド,ため池・池沼,潟・湖・ダム湖 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域,(4)河川・湿地地域 |
【分布域】
繁殖地はレナ川、ヤナ川下流よりチュクチ半島およびカムチャツカ半島まで。越冬地は中国、朝鮮半島、日本。国内では北海道および本州の茨城県鹿島郡鳥栖(現鉾田町鳥栖地区)、軽野村(現神栖市)、千葉県手賀沼、岐阜県縣下池など(黒田 1939)。明治、大正期などガン類が全国的に激減する以前の分布の詳細は不明だが、1980年代に入って野外におけるヒシクイの亜種識別法が確立され、オオヒシクイは日本海側の新潟、石川、滋賀で越冬することが明らかになった。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
繁殖地はバイカル湖からカムチャツカ半島まで、南はモンゴル北部、アルタイ地方南部までのタイガ。かつてはサヤン山脈からカムチャツカにかけて連続的に分布していたとされるが、現在では繁殖地が分断化されている。越冬地は中国、韓国、日本。分布域の最も東のカムチャツカ半島で繁殖する集団は日本で、マガダンとヤクーツクで繁殖する集団は韓国と中国東部で、サヤン山脈からアルタイ地方で繁殖する集団は中国西部でそれぞれ主に越冬すると考えられている。日本では、サロベツ原野や十勝川流域を中継し、本州で越冬する。日本海側に主に越冬分布し、福島潟、鳥屋野潟、佐潟、朝日池(以上新潟県)、片野鴨池(石川県)、九頭竜川下流域・周辺水田(福井県)、琵琶湖、西池(滋賀県)などで越冬し、一部が太平洋側の蕪栗沼、伊豆沼など(宮城県)、少数が霞ヶ浦・稲波干拓地(茨城県)で越冬する。また、ヤクーツクで繁殖する集団の一部は西日本(出雲平野)でも越冬する。八郎潟はかつて渡りの中継地だったが、近年は越冬個体が増加している。
【生息・生育地の現況】
生息地の多くは鳥獣保護区等で保護が図られているが、全体的に本亜種が好むマコモ・ヒシ等が繁茂する湿地環境の減少または劣化が見られる。また、亜種ヒシクイと比較して河川の利用も多く、河川管理が本亜種の生息地利用に影響を与えることがある。例えば、九頭竜川下流域では1980年頃には約2,000羽が観察されていたが、2010年代前半には数十羽から200羽程度しか記録されなくなり、餌になっていたマコモが減少したことがその要因のひとつと考えられる。
【個体数の現況】
1971年に狩猟鳥から除外され、国の天然記念物に指定され、日本の個体群は絶滅を免れた。1990年代半ばには、日本6,000羽、韓国6,000羽、北朝鮮700羽、中国5万羽、全体で5万羽から7万羽と推定されているが(Miyabayashi & Mundkur 1999)、近年では日本9,400羽、韓国7,700羽、中国24,100羽と推定されている(Li et al 2020)。生息地別にみると、朝日池、鵜ノ池、片野鴨池などで増加傾向が見られるが、九頭竜川河口周辺や琵琶湖などでは減少している。ただし国内全体としては、漸増していた個体数が、近年はより安定していると考えられる。
存続を脅かす要因
湖沼や河川における抽水域環境の劣化や消失、河川管理による環境改変に加え、鉛中毒や高病原性鳥インフルエンザなどの危機にさらされていると考えられる。
| 要因の区分 | (過去) | 湖沼開発,河川開発,湿地開発 |
|---|---|---|
| (現在) | 湖沼開発,河川開発,湿地開発,圃場整備 |
特記事項
本亜種を含む、種ヒシクイの都道府県レッドリスト・レッドデータブック掲載状況(令和6年度末時点)は以下のとおり。 【岩手県】準絶滅危惧,【福島県】準絶滅危惧(NT),【群馬県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【埼玉県】絶滅危惧ⅠA類(CR)(越),【千葉県】消息不明・絶滅生物(X),【東京都(本土部)】絶滅(EX),【東京都(区部)】絶滅(EX),【富山県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【石川県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【滋賀県】絶滅危機増大種,【兵庫県】Bランク,【鳥取県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【島根県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【山口県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【鹿児島県】絶滅危惧Ⅱ類
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第4次 2019 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第4次 2018 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第4次 2017 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第4次 2015 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第4次 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第3次 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第2次 | オオヒシクイ | Anser fabalis middendorffii | NT |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【北海道】留意(N),【青森県】希少野生生物(Cランク),【宮城県】準絶滅危惧(NT),【山形県】準絶滅危惧(NT),【茨城県】絶滅危惧ⅠB類,【新潟県】準絶滅危惧(NT),【福井県】県域絶滅危惧Ⅰ類,【岡山県】準絶滅危惧,【熊本県】要注目種(AN),【大分県】準絶滅危惧(NT),【沖縄県】準絶滅危惧(NT)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国指定天然記念物,鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
池内俊雄,2017.ヒシクイ・オオヒシクイQ&A50.雁の里親友の会,宮城. 環境省自然環境局,2020.モニタリングサイト1000 ガンカモ類調査 2004~2017年度 とりまとめ報告書.環境省生物多様性センター,山梨. 環境省自然環境局,2022.第52回ガンカモ類の生息調査報告書.環境省生物多様性センター,山梨. Kurechi, M., 1991. Report on East Asian races of Bean Geese in Japan and Kamchatka. IWRB Threatened Waterfowl Research Group Newslettter, 1: 11-12. 呉地正行・横田義雄・大津真理子,1983.ヒシクイAnser fabalis serrirostris とオオヒシクイA. f. middendorfiの野外識別についての考察.鳥,32: 95-108. 黒田長道,1939.雁と鴨.修教社書院,東京. Li et al., 2020. Population trends and migration routed of the East Asian Bean goose. Wildfowl, special issue, 6: 124-156. 宮林泰彦(編),1994.ガン類渡来地目録.第1版.雁を保護する会,若柳. Miyabayashi, Y. and T. Mundkur, 1999. Atlas of Key Sites for Anatidae in the East Asian Flyway, pp. 31-34. Wetlands International. 嶋田哲郎,1996.シリーズ「この鳥を守ろう」の現在 第17回 ヒシクイとオオヒシクイ-亜種間で異なるその生態-.私たちの自然,(417): 18-21. 嶋田哲郎,2010.気象条件にともなうヒシクイの短期的移動.Bird Research,Vol. 6,pp. S7-S11.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Anser fabalis middendorffii has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Anser fabalis middendorffii is listed as NT under criteria ②.
The species that is considered to be under increasing pressure for survival, as indicated by habitat status trends, specifically with the following notable tendencies in parts of its distribution that are likely to continue. ②Habitat conditions are deteriorating.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Farmland, Wetland, Lower river basin, Inlet, Reservoir/Pond, Lagoon/Lake/Dam |
|---|---|
| Threat types | Lake development, River development, Wetland development, Field preparation |
| Law designation status for conservation | Nationally Designated Natural Monument. Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 牛山克巳(宮島沼水鳥・湿地センター) |
| Author: | Katsumi Ushiyama |
| 協力者: | 嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団) |
公開年月:2026年3月
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