評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | カモ目 | 科名 | カモ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Anseriformes | Family | Anatidae |
| 和名 | ホシハジロ | ||
| 学名 | Aythya ferina (Linnaeus, 1758) | ||
2. カテゴリー判定: 準絶滅危惧(NT) 判定基準: ①②
| 基準A: VU未満 | 基準B: ― | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。 具体的には、分布域の一部において、次の傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 ①個体数が減少している。 【判断理由】 ガンカモ類の生息調査の記録では、1990年代後半の20万羽から2020年前後には10万羽まで減少している。直近10年の減少率は絶滅危惧種の基準に届かないが、前述の期間に一貫して減少傾向が続いているので注意が必用である。越冬期に内湾や大湖沼に数千から数万羽の群を形成するが、東京湾、浜名湖、三河湾、伊勢湾、琵琶湖、児島湾、中海・宍道湖で万単位から千単位への減少が起きている。 ②生息条件が悪化している。 【判断理由】 本種の食物である底生生物の量的な評価は行われていないが、生息地において、アサリやシジミの漁獲量が著しい減少傾向にある。原因として、海底の無酸素状態の水が動くことによって起きる貧酸素状態(青潮)が東京湾、伊勢湾・三河湾、児島湾が指摘されており、本種が食物にしている底生生物に広範な影響が出ていると考えられる。
3. 概要
沿岸域と湖沼に生息する潜水ガモである。大きな生息地は本州の内湾や中海・宍道湖にあったが、2010年代に個体数の急速な減少が起きた。同所的に生息するキンクロハジロやスズガモも減少していることから、生息地において環境の悪化が起きている可能性がある。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
全長43-48 cm、翼長195-214 mm、ふ蹠長36-41 mm、嘴峰長44-52 mm、体重938.6-678 g。オスは頭と首が赤茶色で、目の前方がわずかに黒い。目の虹彩は赤。くちばしは根元が黒く、中央部は青灰色、先端が黒。胸は黒く、背中と脇腹は灰色。上尾筒と下尾筒は黒く、尾羽は灰色。メスは頭、首、胸が茶色。喉、くちばしの付け根、目の周囲と目の後ろ部分は茶色が薄くて白っぽく見える。虹彩はこげ茶色。くちばしは根元から中央より少し先まで黒く、続いてオスより細い青灰色の帯があり、先端は黒い。背中と脇腹はオスと似た灰色と茶色がかった色とが入り交じる。
【生活史】
10月に入ると全国的に飛来が始まる。3月になると数が減少しはじめ、4月末までにほとんど見られなくなる。緯度によって異なるが、繁殖地には3月上旬から5月上旬に到着する。浅い水域で採食を行い、環境によって貝類、無脊椎動物、水生植物などを採食する。長野県で採集されたホシハジロの胃内容物では水生植物が主な食物になっており、特に栄養価の高い越冬芽が多く見つかっている。動物質の食物ではユスリカなどの水生昆虫が見つかっているが、貝類を食べていた個体はいなかった(羽田 1962)。一方、中海・宍道湖のホシハジロは二枚貝を食物としていた(岡 1988)。
【生息・生育環境】
沿岸域、河川の河口域、大型湖沼に多い。平野部の池や山地のダム湖でも見られる。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_低標高地】ため池・池沼,湖・ダム湖 【陸域_平地部 海岸部】河川下流域,河口域,ため池・池沼,潟・湖・ダム湖,汽水域,潟・汽水湖 【海域(沿岸)_表層】海面 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (4)河川・湿地地域,(5)沿岸域 |
【分布域】
北海道から沖縄まで全国に分布する。ガンカモ類の生息調査によると、2000年前後には約1万羽を超える生息地が、東京湾、浜名湖、三河湾、伊勢湾、琵琶湖、大阪湾、児島湾、中海・宍道湖に存在した。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
北海道から沖縄まで全国に分布する。ガンカモ類の生息調査によると、2020年前後に約1万羽を超える生息地は大阪湾と佐賀県沿岸だけである。
【生息・生育地の現況】
本種は内陸湖沼にも生息するが、大きな群が見られるのは沿岸域や大湖沼である。沿岸域では餌場になる浅海域は埋め立てが進んでいることは一因と思われるが、2000年代に入ってからは以前に比べれば埋め立ては活発ではない。本種の食物である貝類や底生生物の現存量は不明だが、全国的にアサリの漁獲が減っていることから、本種の食物も減少している可能性が考えられる。
【個体数の現況】
ガンカモ類の生息調査によると、1990年代後半には16-20万羽だったが、その後一貫して減少が続いており、2010年ごろは13万羽、2020年以降は8.5-10万羽になっている。
存続を脅かす要因
アサリの減少は複合的な要因が指摘されているが、東京湾、伊勢湾・三河湾、児島湾では、海底の無酸素状態の水が移動することで生じる貧酸素水塊によってアサリやベントスが窒息死することが指摘されている(松川2008, 高木2015)。貧酸素水塊は広範な底生生物を死に至らしめることから、キンクロハジロの餌資源が減少していることが考えられる。同所的に生息するキンクロハジロやスズガモも減少していることから、生息地に問題が起きている可能性がある。
| 要因の区分 | (過去) | 湖沼開発,河川開発,海岸開発,水質汚濁 |
|---|---|---|
| (現在) | 湖沼開発,河川開発,海岸開発,水質汚濁 |
特記事項
ヨーロッパでもホシハジロが減少しており(Fox et al. 2016)、1989-90年と2016年の調査を比較すると近年はオスの比率が高まっていることから、繁殖期に捕食されて命を落とすメスが増えている可能性が指摘されている(Brides et al. 2017)。日本のホシハジロのオス比率もカモ類の中で最もオスに偏っており(神山 2019)、約69%がオスである。このことから、繁殖地においても減少する要因があるのかもしれない。 国内の個体数は記録がある1990年代後半から一貫した減少傾向にあり、2020年代までに半減している。いくつもあった1万羽を超える大きな生息地も、いまでは大阪湾と有明海北部だけになってしまった。今後も継続して注意すべき種である。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ― | ― | ― |
| 第4次 2019 | ― | ― | ― |
| 第4次 2018 | ― | ― | ― |
| 第4次 2017 | ― | ― | ― |
| 第4次 2015 | ― | ― | ― |
| 第4次 | ― | ― | ― |
| 第3次 | ― | ― | ― |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【東京都(本土部)】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【東京都(区部)】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【東京都(北多摩)】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【東京都(南多摩)】絶滅危惧Ⅱ類(VU)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
バードリサーチ,2019.ハジロ類の潜水ガモの減少.バードリサーチニュース,2019年10月: 2. 環境省,1996-2022.https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html ガンカモ類の生息調査(オンライン) 松川康夫・張成年・片山知史・神尾光一郎,2008.我が国のアサリの漁獲量激減の要因について.日本水産学会誌,74(2): 137-143. 岡奈理子,1988.浅水域のprey-predatorシステム.月刊海洋,30: 289-295. 高木秀蔵・石黒貴裕・弘奥正憲・加藤聡・片山貴之,2015.閉鎖性湾の児島湾における水位変動に伴う間欠的な貧酸素.日本水産学会誌,81(2): 293-295.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Aythya ferina has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Aythya ferina is listed as NT under criteria ①②.
The species that is considered to be under increasing pressure for survival, as indicated by habitat status trends, specifically with the following notable tendencies in parts of its distribution that are likely to continue. ①The number of individuals is decreasing. ②Habitat conditions are deteriorating.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Low-altitude area】Reservoir/Pond, Lake/Dam 【Terrestrial/Freshwater area_Plain, Beach】Lower river basin, Estuary, Reservoir/Pond, Lagoon/Lake/Dam, Brackish water, Lagoon/Brackish lake 【Marine area (Coastal area)_Surface water】Sea surface |
|---|---|
| Threat types | Lake development, River development, Coastal development, Water pollution |
| Law designation status for conservation | Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 神山和夫(バードリサーチ) |
| Author: | Kazuo Koyama |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
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