評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | ツル目 | 科名 | クイナ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Gruiformes | Family | Rallidae |
| 和名 | ヒクイナ | ||
| 学名 | Zapornia fusca erythrothorax (Temminck & Schlegel, 1849) | ||
2. カテゴリー判定: 準絶滅危惧(NT) 判定基準: ①②
| 基準A: VU未満 | 基準B: VU未満 | 基準C: VU未満 | 基準D: VU未満 | 基準E: ― |
生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。 具体的には、分布域の一部において、次の傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 ①個体数が減少している。 【判断理由】 全国鳥類繁殖分布調査の結果、2010年代において繁殖が確認されたメッシュ数は1990年代よりわずかに増加していたが、1970年代と比較すると大幅に少なかった。同調査において、日本海側の新潟県や山形県、岩手県、青森県、北海道では1970年代の調査で本種の生息が確認されていたものの、2010年代の調査では生息確認メッシュが得られなかった。 ②生息条件が悪化している。 【判断理由】 近年、大分県において、宅地開発、圃場整備、水田の乾田化などにより本種の生息環境が悪化しており、観察頻度が減少している。
3. 概要
本亜種は、北海道、本州、佐渡、四国、九州で繁殖し、冬鳥あるいは留鳥として生息する。おもにスゲ類やヨシなどの湿地性植物が繁茂する池沼や河川の水深約10 cm以下の水辺、イネの生育する水田などに生息する。鳥類繁殖分布調査1978では九州から北海道まで広く生息・繁殖が確認されていた。しかし、1990年代の全国鳥類繁殖分布調査では50メッシュで記録されただけであった。さらに、2016-2020年の全国鳥類繁殖分布調査では関東以南の太平洋側や九州地方での生息状況が回復傾向にあることが分かったが、日本海側や東北地方では生息状況が悪化したままで、北海道では生息地が確認されなかった。一方、越冬期の生息分布は1970年代には九州地方の一部に生息が確認されていただけであったが、2010年代では関東以南の主に太平洋側で著しい分布拡大が認められるとともに、一部の地域では越冬個体数の増加も確認されている。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
全長22.7 cm(榎本 1941)。後頭部から体上面は暗緑褐色、前頭部から首、胸、腹部上部が赤褐色をしており、脇から下尾筒は暗緑褐色で白色の横縞がある。嘴は黒褐色で脚は赤色をしている。雌雄同色だが、メスのほうが胸から腹部上部の赤色味が少ない。
【生活史】
本亜種は日本では夏鳥(北海道、本州北部)あるいは留鳥(本州中・南西部)として生息・繁殖する(日本鳥学会2012)。生息環境は、水田や池沼、河川のおもに水深10 cm以下のイネやスゲ類などの植物が生育する湿原や水辺に生息する。関東以南および太平洋側の地域では留鳥として生息する。繁殖期(5月から8月)にはつがいで生息し、雄は「クイナの叩き」として知られるキョ、キョ、キョ、キョ、コン、コン、コン、コンと次第にテンポが速くなる鳴き声で日中や夜間に鳴く。秋冬期にはおもに単独で生息する。秋冬期や早春にはコッコッコなどと鳴きながらスゲ類やイネ科植物が茂った草地を歩きながら採食する。近くに別の個体が生息する場合にはカイツブリに似たギュルルルーと聞こえるやや大きな声で鳴く。5月ごろから8月にかけて地上の植物の間やイネの地上20 cmほどの高さの株のなかに周りの植物を使って碗状の巣を造り、産卵・抱卵する。ヒナは全身が黒い羽毛で覆われており、孵化した直後から親鳥について歩きながら育雛される。北日本の個体は、冬季には暖地へ渡る。食性は、昆虫類やミミズ、小型の魚類、植物の葉や芽などを食べる。
【生息・生育環境】
おもにスゲ類やヨシなどの湿地性植物が繁茂する池沼や河川の水深約10 cm以下の水辺、イネの生育する水田などに生息する。ときには海抜1500 m前後の高層湿原にも生息する。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_中標高地 低標高地】草地,田地・畑地,耕作放棄地,農業用水路,湿地・湿原・細流,河川中流域,ため池・池沼 【陸域_平地部】田地・畑地,耕作放棄地,湿地・湿原,河川中流域,河川下流域,小河川,ため池・池沼 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (1)奥山自然地域,(2)里地里山・田園地域,(4)河川・湿地地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
北海道、本州、佐渡、四国、九州で繁殖し、冬鳥あるいは旅鳥として御蔵島、八丈島、対馬、種子島、屋久島に渡来する(清棲1978)。鳥類繁殖地図調査1978では、九州から北海道まで広く生息が確認されており、関東地方や愛知県のほか石川県や新潟県などの日本海側や岩手県、宮城県、北海道でも繫殖確認メッシュが記録されていた。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
2021年に発行された全国鳥類繁殖分布調査報告によると、ヒクイナの2016-2021年の繁殖期の生息状況はA(繁殖を確認)が21メッシュ、B(繁殖は確認できなかったが繁殖の可能性がある)が64メッシュ、C(繁殖の可能性は何ともいえない)が38メッシュで、合計123メッシュ(沖縄・種子島等を含む)で生息が確認された(植田・植村2021)。繁殖期の生息確認メッシュ数は、1970年代の生息確認メッシュ159メッシュより少なかったが1990年代の生息確認メッシュ数50メッシュより大幅に増加していた。しかし、2010年代では1970年代に記録があった本州中部の内陸部や東北地方では記録されたメッシュは極めて少なく、北海道では生息が確認されたメッシュはなかった。一方、2023年に発行された全国鳥類越冬分布調査報告2016-2022年では、関東以南の主に太平洋側に分布が著しく拡大していた(植田・植村・山﨑2023)。
【生息・生育地の現況】
農業用溜池や洪水対策の遊水地など水深の浅い湿地環境が維持されている場所ではヒクイナの生息が確認されている一方で、河川では洪水対策用の護岸工事や砂礫地の撤去などによって本種の選好する湿地性の植物が繁茂する環境が減少している。さらに、水田では除草作業や乾田化などによって繁殖の攪乱や餌資源の減少などの阻害要因が継続的に存在する。
【個体数の現況】
主に関東以西の太平洋側では2010年代以降になると生息地が増加傾向にあり(植田・植村2021)、良好な湿地性草原が広がる地域では個体数も増加傾向にあることが報告されている(渡辺・平野2011)。個体数の増加や生息地の分布拡大は繁殖期ばかりでなく、冬期の個体数増加や分布拡大の傾向がある(たとえば籠島2022、植田・植村・山﨑2023)。さらに、栃木県南部の渡良瀬遊水地では2022年1月に半径約100 mの範囲内で少なくとも6羽の越冬個体を記録した(平野未発表)。一方で、日本海側の福井県などでは繁殖期・冬期を含めて生息数は少ないままであることが報告されている(出口2017)。
存続を脅かす要因
河川改修による水辺のヨシやスゲ類などの植物の減少による生息環境の悪化、農作業(乾田化、干し上げ)による餌資源の減少。
| 要因の区分 | (過去) | 湖沼開発,河川開発,湿地開発,圃場整備 |
|---|---|---|
| (現在) | 湖沼開発,河川開発,湿地開発,圃場整備 |
特記事項
地球温暖化の影響で北日本での冬季における分布拡大や個体数が増加する可能性がある。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | NT |
| 第4次 2019 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | NT |
| 第4次 2018 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | NT |
| 第4次 2017 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | NT |
| 第4次 2015 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | NT |
| 第4次 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | NT |
| 第3次 | ヒクイナ | Porzana fusca erythrothorax | VU |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【北海道】情報不足(Dd),【青森県】最重要希少野生生物(Aランク),【岩手県】絶滅危惧Ⅱ類,【宮城県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【秋田県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【山形県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【福島県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【茨城県】絶滅危惧ⅠA類,【栃木県】絶滅危惧Ⅱ類(Bランク),【群馬県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【埼玉県】絶滅危惧ⅠA類(CR)(繁),【千葉県】最重要保護生物(A),【東京都(本土部)】絶滅危惧ⅠA類(CR),【東京都(区部)】絶滅危惧ⅠA類(CR),【東京都(北多摩)】絶滅危惧ⅠA類(CR),【東京都(南多摩)】絶滅危惧ⅠA類(CR),【東京都(西多摩)】絶滅危惧ⅠA類(CR),【神奈川県】絶滅危惧Ⅰ類(繁殖期),【新潟県】絶滅危惧Ⅰ類(EN),【富山県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【石川県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【福井県】県域絶滅危惧Ⅰ類,【山梨県】情報不足(DD),【長野県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【岐阜県】絶滅危惧Ⅱ類,【静岡県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【愛知県】絶滅危惧Ⅱ類(VU)(繁殖),準絶滅危惧(NT)(通過),【三重県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【滋賀県】絶滅危機増大種,【京都府】絶滅危惧種,【大阪府】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【兵庫県】Bランク,【奈良県】絶滅危惧種,【和歌山県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【島根県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【岡山県】絶滅危惧Ⅱ類,【広島県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【山口県】準絶滅危惧(NT),【徳島県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【香川県】準絶滅危惧(NT),【愛媛県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【高知県】準絶滅危惧(NT),【福岡県】準絶滅危惧(NT),【長崎県】準絶滅危惧(NT),【熊本県】準絶滅危惧(NT),【大分県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【宮崎県】準絶滅危惧(NT-g),【鹿児島県】絶滅危惧Ⅱ類
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
出口翔大,2017.ヒクイナPrzana fuscaの福井市南西部における生息調査および福井県内の過去の生息記録.福井市自然史博物館研究報告,No.64: 49-54. 平野敏明,2006.渡良瀬遊水地における繁殖期のクイナ・ヒクイナの生息状況と生息環境.Bird Research,vol.2: A35-A46. 平野敏明,2010.ヒクイナ調査結果報告:日本における2000年代後半のヒクイナの生息状況.http://www.bird-research.jp/1_katsudo/hikuina/hikuina2010.pdf 籠島恵介,2022.ヒクイナの香川県および徳島県における越冬状況.Bird Research,vol.22: S1-S4. 植田睦之・植村慎吾,2021.自然環境保全基礎調査 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年.176pp. 鳥類繁殖分布調査会,東京. 植田睦之・奴賀俊光・山﨑優佑,2023.全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022年.pp. 170.特定非営利活動法人 バードリサーチ・公益財団法人 日本野鳥の会,東京. 渡辺美郎・平野敏明,2008.神戸市西区および稲美町一帯におけるヒクイナの生息状況.日本鳥学会2008年度大会講演要旨集,pp. 41. 渡辺美郎・平野敏明,2009.神戸市西区および稲美町一帯におけるヒクイナの越冬期の生息状況.日本鳥学会2009年度大会講演要旨集,pp. 110.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Zapornia fusca erythrothorax has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Zapornia fusca erythrothorax is listed as NT under criteria ①②.
The species that is considered to be under increasing pressure for survival, as indicated by habitat status trends, specifically with the following notable tendencies in parts of its distribution that are likely to continue. ①The number of individuals is decreasing. ②Habitat conditions are deteriorating.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Mid-altitude area, Low-altitude area】Grassland, Farmland, Abandoned farmland, Agricultural ditch, Wetland/Marsh/Stream, Middle river basin, Reservoir/Pond 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Farmland, Abandoned farmland, Wetland, Middle river basin, Lower river basin, Small river, Reservoir/Pond |
|---|---|
| Threat types | Lake development, River development, Wetland development, Field preparation |
| Law designation status for conservation | Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 平野敏明(バードリサーチ) |
| Author: | Toshiaki Hirano |
| 協力者: | 植田睦之(バードリサーチ) |
公開年月:2026年3月