評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | ツル目 | 科名 | ツル科 |
|---|---|---|---|
| Order | Gruiformes | Family | Gruidae |
| 和名 | タンチョウ | ||
| 学名 | Grus japonensis (Müller, 1776) | ||
2. カテゴリー判定: 準絶滅危惧(NT) 判定基準: ②
| 基準A: ― | 基準B: VU未満 | 基準C: VU未満 | 基準D: VU未満 | 基準E: ― |
分布域の一部において、次の傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 ②生息条件が悪化している。 【判断理由】 タンチョウが繁殖できる湿原は概して減少しており、主要な繁殖地の一つである釧路湿原では、湿原の乾燥化やハンノキ林の拡大が進んでいる。 (補足) 北海道の個体数は、1952年冬に33羽が確認されただけで、見落としを考慮しても、かなり深刻な状況であったが、その後、冬季の給餌などを中心とする保護対策によって、個体数は回復傾向にある。ただし上記のとおり、主要な営巣環境である湿地は、開発や乾燥化、海岸浸食などの影響で面積が減っている。北海道では、保護対策によって個体群が維持されているため、個体群の存続基盤は脆弱で、現時点では絶滅の危険度は小さくなったと考えられるものの、生息条件の変化によっては、「絶滅危惧」として上位カテゴリーに移行する要素があると考えられ、今後も注視が必要である。
3. 概要
国内では、北海道に約1,900羽が、留鳥として生息している。繁殖地は、主に釧路湿原や道東の湿地群を含む根釧原野と十勝地方であるが、近年ではオホーツク地方、宗谷地方、石狩空知地方などにも分布域が拡大している。冬は大半が釧路地方に集まるため、越冬地の分散化が課題であるが、近年では道央圏で越冬する個体が徐々に増えつつある。1982年以降、国後島と歯舞諸島でも少数の繁殖が確認されている。ユーラシア大陸の東部には、約1,400羽の大陸個体群が生息しているが、大陸個体群は近年減少傾向である。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
目から頸の上部にかけてと、次列、三列風切羽が黒いほかは白色の羽毛である。頭頂は皮膚が赤く裸出している。成鳥の背の高さ(立ったときの頭頂までの高さ)は、約150 cm、全長(嘴端~尾羽)102~147 cm程(平均ではオス136 cm、メス126 cm)、体重は4~10.5 kg(平均ではオス7.8 kg、メス6.9 kg)である(いずれも成鳥)。
【生活史】
日本の個体群は、繁殖地と越冬地間の移動はあるが、繁殖地も越冬地も北海道内にあり、留鳥である。北海道では2月下旬~4月初旬に繁殖地に戻り、浅い水の中に枯れたヨシを積み重ねて巣を作り産卵する。巣は直径1.5~2.5 m、高さ30 cm程である。一腹産卵数は平均1.8卵である。4月中旬頃から孵化が始まり、雛は通常数日以内に巣を離れる。8月中旬~9月に飛べるようになり、10~11月頃には収穫後のトウモロコシ畑などで採餌する群れが見られる。11月~3月末は主に給餌場に集まる。
【生息・生育環境】
繁殖期には低層湿原、中間湿原、沼沢、河川、干潟などにすみ、通常ヨシ群落の中に営巣するが、未利用の放牧地や背の低いササ草原に営巣することもある。繁殖後期から秋期には牧草地や畑で餌を採ることが多い。冬は不凍の河川でねぐらをとり、給餌場のほか湧水地、河川、放牧地などで採餌する。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_平地部 海岸部】草地,田地・畑地,耕作放棄地,湿地・湿原,河川下流域,河口域,潟・湖・ダム湖 【海域(沿岸)_潮間帯】干潟 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域,(4)河川・湿地地域 |
【分布域】
北海道に生息する個体群と、ユーラシア大陸の東部に分布する大陸の個体群に分けられている。北海道の個体群は留鳥であるが、大陸では、アムール川の本・支流沿いのロシア東部や中国北東部などで繁殖し、冬は中国江蘇省沿海部や朝鮮半島などで越冬する、渡りをする個体群である。北海道では、主に東部地域の十勝、釧路、根室地方に生息していたが、近年ではオホーツク地方や宗谷地方のほかに、空知、石狩、胆振地方などの道央圏にも分布域が拡大している。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
1980年代までの繁殖地は、北海道東部(十勝、釧路、根室)に限られていた。網走地方では、1982年に繁殖が確認されたが、その後の繁殖記録はしばらく途絶え、1999年からまた繁殖が確認されるようになる。宗谷地方では2004年から繁殖が確認されるようになり、最近では日高地方、胆振地方、空知地方でも繁殖が確認されるようになっており、繁殖地域は拡大している。
全国鳥類繁殖分布調査の結果から算出した出現範囲は約61,630 km²、生息地面積は約11,656 km²と計算される。
越冬する地域について、北海道庁が実施している第1回タンチョウ越冬分布調査(2024年12月5日実施)では、総確認数の976羽のうち、北海道東部(十勝、釧路、根室)では899羽(92%)が確認され、越冬個体は東部に集中しているが、空知地方、石狩地方、胆振地方、日高地方、オホーツク地方でも確認されており、少数であるが越冬地の分散化が進みつつある。
【生息・生育地の現況】
生息地の湿原が大規模に開発されて減少したが、近年繁殖つがい数が増加するにしたがって、河川改修後に残された河跡湖や河川上流部の小湿原での営巣例が多くなってきた。越冬地は、釧路湿原周辺の給餌場が中心であるが、近年は十勝平野西部や、かつて越冬が見られなかった浜中~根室地域でも越冬するつがいが増えているほか、道央圏の空知、石狩、胆振地方でも越冬期の一斉調査で個体が確認されるようになってきている。
【個体数の現況】
1952年の冬に33羽が確認された。冬期の給餌により個体数は増加し、北海道庁が主として進めているタンチョウ越冬分布調査では、2004年2月に1,000羽を越えたことが確認され、その後も個体数の増加は続いており、2025年1月下旬の調査では1,927羽が確認された。北海道内の繁殖つがい数は、2013年には400つがいを超えた程度であったが、最近では繁殖地全域での航空機調査が実施されていないので、正確な繁殖つがい数はわからない。
1989年度の1月下旬の調査結果では441羽であったが、2022年度には1,344羽まで増加しており、この調査結果に基づく年増加率は約3.3%と計算できる。タンチョウ保護研究グループの結果では、2022年度の1,850羽まで増加しており、1952年度の33羽から計算すると年増加率は約5.0%と算出でき、北海道(日本)の個体群は、年増加率が3-5%で増加傾向といえる。
最近の冬季の各調査などから、2022年の生息数は約1,800羽(1,500~1,900羽)、うち幼鳥(0歳)の個体数は約200羽(157~222羽)と推定できる。3年で成鳥になる(正富 2000)。幼鳥(0歳)と亜成鳥(1~2歳)が死亡しないと仮定すると、幼鳥と亜成鳥の個体数は600羽と計算ができ、これらを差し引いた1,200羽が成鳥(成熟個体)の個体数と試算できる。実際には、幼鳥と亜成鳥が少なからず死亡することや、近年さらに増加していることを考慮すると、成熟個体は1,200羽より多いと考えられる。しかしながら、生息数が増加する一方で、生息数の相当割合が冬期間に給餌又はこぼれた飼料等の人為的な餌資源に依存しているほか、不安定な環境で営巣する番も増加しており、種の存続の基盤は依然として不安定なままである。
存続を脅かす要因
北海道東部の個体群は、冬季に給餌で維持されていると思われ、個体群は保全対策によって維持されている保全依存種であると考えられる。給餌場では個体が集中するため、感染症発生のリスクがあるほか、電線衝突事故、交通事故(自動車および列車)、牛の屎尿溜めに落ちる事故などのリスクがある。
| 要因の区分 | (過去) | 交通事故,人工構造物への衝突 |
|---|---|---|
| (現在) | 交通事故,感染症/病原菌,人工構造物への衝突 |
特記事項
ミトコンドリアDNAを使った研究では、北海道個体群は3つの遺伝タイプしか見つかっておらず、かつ存在比率も一つのタイプに大きく偏っており、大陸個体群と比べても、北海道個体群の遺伝的な多様性は極めて低い。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第4次 2019 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第4次 2018 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第4次 2017 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第4次 2015 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第4次 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第3次 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第2次 | タンチョウ | Grus japonensis | VU |
| 第1次 | タンチョウ | Grus japonensis | E |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【北海道】絶滅危惧Ⅱ類(Vu),【青森県】絶滅野生生物(EX),【山形県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【鳥取県】絶滅(EX),【山口県】絶滅危惧ⅠA類(CR)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種,保護増殖事業,国指定特別天然記念物,鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
北海道地方環境事務所,2023.生息地分散行動計画(第2.0版).北海道地方環境事務所,札幌. Koga, K., 2008. The status review of the Tancho in Hokkaido: current threats. The Current Status and Issues of the Red-crowned Crane. In: K. Koga, D. Hu and K. Momose (eds.), 231pp. Tancho Protection Group, Kushiro, pp. 13-20. 正富宏之,2000.タンチョウ.北海道新聞社,札幌.327pp. 正富宏之,2000.タンチョウ そのすべて.北海道新聞社,札幌. 正富宏之・百瀬邦和・古賀公也・正富欣之・松本文雄,2008.2008年の北海道におけるタンチョウの繁殖状況.専大北海道地域共同研究センター紀要,3: 33-58. 百瀬邦和,2012.2012 年 1 月のカウント総数は1463(191)(仮).TKG ニュースNo52.タンチョウ保護研究グループ発行.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Grus japonensis has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Grus japonensis is listed as NT under criteria ②.
Although the population is recovering, the following notable trends in parts of its distribution, especially the decreasing wetlands that serve as breeding grounds, are likely to continue. ②Habitat conditions are deteriorating.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Plain, Beach】Grassland, Farmland, Abandoned farmland, Wetland, Lower river basin, Estuary, Lagoon/Lake/Dam 【Marine area (Coastal area)_Intertidal zone】Intertidal mudflat |
|---|---|
| Threat types | Vehicle collision, Disease, Collision with man-made structures |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. Conservation and reproduction programs. Nationally Designated Special Natural Monument. Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 玉田克巳(地方独立行政法人北海道立総合研究機構) |
| Author: | Katsumi Tamada |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©自然環境研究センター