評価分科会名: 鳥類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | スズメ目 | 科名 | ホオジロ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Passeriformes | Family | Emberizidae |
| 和名 | ノジコ | ||
| 学名 | Emberiza sulphurata Temminck & Schlegel, 1848 | ||
2. カテゴリー判定: 準絶滅危惧(NT) 判定基準: ①
| 基準A: ― | 基準B: VU未満 | 基準C: VU未満 | 基準D: VU未満 | 基準E: ― |
生息状況の推移から見て、種の存続への圧迫が強まっていると判断されるもの。 具体的には、分布域の一部において、次の傾向が顕著であり、今後さらに進行するおそれがあるもの。 ①個体数が減少している。 【判断理由】 福井県敦賀市中池見湿地および新潟県長岡市、三条市において秋季の渡りの標識個体数が近年減少している。
3. 概要
全長13~14 cm。一夫一妻。繁殖地は世界中で日本のみが知られる渡り鳥で、本州の中部以北の多雪地帯で繁殖する。繁殖期は低標高域の沢筋の林縁や矮性低木林、耕作放棄地から高標高域の湿地に成立するサワラやハンノキ林を選好する。4月下旬頃に繁殖地に渡来し、雌のみが低木や草本の根元に、枯れた草の葉や茎などを用いて椀形の巣をつくる。一腹卵数は3−5個で、抱卵およびヒナへの給餌は鱗翅目幼虫やクモ類を中心に雌雄共同で行ない、抱卵期間は14日間で、ヒナは孵化後7日ほどで巣立つ。秋の渡りは本州中部で10月上・中旬にピークを迎え、秋の渡りの際に中山間地のヨシ原を利用する。越冬地は主に中国南部、台湾、フィリピン北部とされている。主要な繁殖環境である低山帯の沢筋では、かつての水田が耕作放棄され、本種にとって好適な湿性の草地、灌木林となっているところが多い。国内では1930年代に平均で1年間に約26,000羽が捕獲されており、その間に個体数が著しく減少したと考えられる。現在の詳しい個体数は不明。繁殖地は全体的に増加傾向にあるが、近年、秋の渡りの標識個体数は減少している。開発や耕作放棄地の植生遷移の進行による生息環境の減少または消失が懸念される。本種が渡りの中継地として定期的に利用することが基準の一つとなり、福井県敦賀市の中池見湿地がラムサール条約に登録されているほか、生息地の一部地域は国設または県設の鳥獣保護区になっている。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
全長13~14 cm、雄は頭部が灰色味のある黄緑色で、目先およびのどは黒色。体上面は淡い黄緑色で黒色の縦斑があり、中雨覆および大雨覆の先端は白っぽい。喉から腹は明るい黄色。雌は雄と比較して全体的に茶色味を帯び、体下面の黄色は淡く、脇腹の縦斑も多い。雌雄ともに眼の周囲には白色のアイリングがあり、下嘴は青灰色で、尾羽の外側2枚に白色の斑がある。アオジEmberiza personataに酷似するが、本種には白色のアイリングがあり、下嘴が青灰色という点で識別できる。
【生活史】
一夫一妻。4月下旬頃に雄の方が先に繁殖地に渡来し、後から到着した雌に求愛し、つがい形成する。つがい形成後になわばり分散を行なう。雄がよく利用するソングポストの近くの低木や草の根元に、枯れた草の葉や茎などを用いて雌が椀形の巣をつくる。一腹卵数は3−5個で、抱卵およびヒナへの給餌は鱗翅目幼虫やクモ類を中心に雌雄共同で行ない、抱卵期間は14日間で、ヒナは孵化後7日ほどで巣立つ。秋の渡りは本州中部で10月上・中旬にピークを迎え、渡りの中継地ではミゾソバなどの種子をついばむ。越冬地は中国南部、台湾、フィリピン北部とされている。標識調査から明らかにされている野外での最長生存期間は約6年。
【生息・生育環境】
本州の中部以北の多雪地帯で繁殖する。低標高域の沢筋から高標高域の湿地で繁殖し、前者では林縁や灌木林、雪崩、地すべりによる矮性低木林、耕作放棄地に発達するやぶ環境を選好する。後者では湿地の中でもサワラ林やハンノキ林の選好性が強い。富士山北麓ではカラマツ林においても繁殖期の生息が確認されている。
秋の渡りの際は中山間地のヨシ原などを利用する。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_中標高地 低標高地】森林,草地,田地・畑地,耕作放棄地,湿地・湿原・細流 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域 |
【分布域】
国内では主に本州の中部以北(石川県―岐阜県―静岡県以東)の多雪地帯で繁殖分布する(植田・植村2021)。過去には山陰地方、広島県、兵庫県、愛知県そして北海道においても繁殖またはその可能性を示唆する記録がある。春秋の渡りの時期には北海道を除く、本州、四国、九州の各地で観察される。
越冬地は国外の中国南部、台湾、フィリピン北部とされているが、1980年代には国内(関東以西)においても複数の越冬期の記録がある。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
繁殖分布は本州の中部以北の海抜約0 m~約1,800 mで、新潟県および東北地方に多い。繁殖メッシュ数は1970年代から全体的に増加傾向にある。春秋の渡りの時期には本州南西部や四国、九州も通過する。現在、越冬期はほとんど国内に分布していない。
【生息・生育地の現況】
新潟県や北陸地方の主要な繁殖環境である低山帯の沢筋では、かつての水田が耕作放棄され、本種にとって好適な湿性の草地、灌木林となっているところが多い。一方で、これらの環境はイノシシやニホンジカの採餌場、ヌタ場となっており、巣の破壊も含めた本種への悪影響が懸念される。秋の渡りの重要な中継地である福井県の中池見湿地では隣接して大規模開発が実施されたが、影響の詳細については不明である。
【個体数の現況】
世界の個体数は、これまで成熟個体数でおよそ2,500~9,999羽、また別の推定で繁殖つがい数は100,000組ともされており、これらは過小評価でさらに多い可能性も指摘されているが、現在の個体数は不明。国内では1930年代に平均で1年間に約26,000羽が捕獲されており、その間に個体数が著しく減少したと考えられる。同一の繁殖地域で異なる年代の6月に行われた密度調査では、1970年代には平均0.25羽/ haであったのが、2010年代は平均0.5羽/ haと約40年間で倍増している。繁殖地は全体的に増加傾向にある。一方で、近年、秋の渡りの標識個体数は減少している。
存続を脅かす要因
1930年代には国内で1年間に10,000~30,000羽単位で捕獲されており、国内外におけるかつての捕獲圧が種の存続をおびやかす主要因となっていたと考えられている。現在、国内においては捕獲の脅威はほとんどないものと考えられるが、国外では台湾で捕獲取引が記録されており、引き続き捕獲が本種にとって脅威になっている可能性が少なくない。国内では繁殖地、渡りの中継地における開発や植生遷移の進行による生息環境(湿性環境)の減少または消失が懸念される。また本種は多雪地の雪解け水が豊富な湿性環境で繁殖し、雪崩や地すべり頻発地に形成されたやぶ環境を好むため、気候変動による積雪量減少の悪影響を受ける可能性も考えられる。
| 要因の区分 | (過去) | 湿地開発,圃場整備,草地開発,ゴルフ場,捕獲・狩猟/園芸採取 |
|---|---|---|
| (現在) | 湿地開発,草地開発,遷移進行・植生変化/自然遷移 |
特記事項
日本が世界で唯一の繁殖地であり、国内における本種の保全の重要性は非常に高い。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第4次 2019 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第4次 2018 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第4次 2017 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第4次 2015 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第4次 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第3次 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第2次 | ノジコ | Emberiza sulphurata | NT |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【青森県】希少野生生物(Cランク),【岩手県】留意,【宮城県】準絶滅危惧(NT),【秋田県】準絶滅危惧(NT),【山形県】準絶滅危惧(NT),【福島県】準絶滅危惧(NT),【茨城県】情報不足①注目種,【栃木県】絶滅危惧Ⅰ類(Aランク),【群馬県】準絶滅危惧(NT),【神奈川県】希少種(繁殖期),【新潟県】準絶滅危惧(NT),【富山県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【石川県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【福井県】県域絶滅危惧Ⅱ類,【山梨県】準絶滅危惧(NT),【長野県】準絶滅危惧(NT),【岐阜県】準絶滅危惧,【愛知県】絶滅(EX)(繁殖),絶滅危惧ⅠB類(EN)(通過),【滋賀県】希少種,【兵庫県】Aランク,【岡山県】準絶滅危惧,【徳島県】準絶滅危惧(NT),【高知県】準絶滅危惧(NT),【福岡県】準絶滅危惧(NT),【長崎県】準絶滅危惧(NT)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
鳥獣保護管理法
5. 参考⽂献
BirdLife International. 2022. Emberiza sulphurata. The IUCN Red List of Threatened Species2022: e.T22720996 A154686501. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK. 2022- 1.RLTS.T22720996A154686501.en. (2025.4.25 閲覧) Deguchi, S., Y. Ishihara and H. Miguchi, 2017. Habitat preferences of breeding Yellow Buntings Emberiza sulphurata in hilly rural areas following rice field abandonment in northern Japan. Bird Conservation International, 27:550-559. Deguchi, S., Y. Ueda and M. Hisano, 2022. Temperature and snow depth explain the breeding distribution pattern of Yellow Bunting Emberiza sulphurata. Ornithological Science, 21(2): 133-143. 中村登流・中村雅彦,1995.原色日本野鳥生態図鑑<陸鳥編>.保育社,大阪. 日本鳥学会,2024.日本鳥類目録 改訂第8版.日本鳥学会,東京. 鉄道・運輸機構 北陸新幹線建設局,2024.北陸新幹線,中池見湿地付近モニタリング調査等 フォローアップ委員会(第 10 回)議事概要の公表について.https://www.jrtt.go.jp/project/Nakaikemi10.pdf. (2024.11.29 閲覧) The Ramsar Sites Information Service, 2012, Information Sheet on Ramsar Wetlands (RIS) - 2009-2012 version. https://rsis.ramsar.org/RISapp/files/RISrep/JP2057RIS.pdf. (2024.11.12 閲覧) 植田睦之・植村慎吾,2021.自然環境保全基礎調査 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年.p. 134.鳥類繁殖分布調査会,東京. 植田睦之・奴賀俊光・山﨑優佑,2023.全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022年.144pp. 特定非営利活動法人 バードリサーチ・公益財団法人 日本野鳥の会,東京. 渡辺央・木下徹,2022.長岡市比礼及び加茂市下条の秋季標識調査からみたノジコの渡りについて.にいがたバンダーニュース,No.79: 6-9. 吉田一朗,2007.福井県中池見湿地付近におけるノジコ.Ciconia(福井県自然保護センター研究報告),12: 21-23.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Emberiza sulphurata has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Emberiza sulphurata is listed as NT under criteria ①.
The species that is considered to be under increasing pressure for survival, as indicated by habitat status trends, specifically with the following notable tendencies in parts of its distribution that are likely to continue. ①The number of individuals is decreasing.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Mid-altitude area, Low-altitude area】Forest, Grassland, Farmland, Abandoned farmland, Wetland/Marsh/Stream |
|---|---|
| Threat types | Wetland development, Grassland development, Successional progression/Vegetation change/Natural succession |
| Law designation status for conservation | Wildlife Protection, Control, and Hunting Management Act. |
| 執筆者: | 出口翔大(福井市自然史博物館) |
| Author: | Shota Deguchi |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©出口翔大(福井市自然史博物館)