評価分科会名: 爬虫類・両生類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | カメ目 | 科名 | ウミガメ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Testudines | Family | Cheloniidae |
| 和名 | アカウミガメ | ||
| 学名 | Caretta caretta (Linnaeus, 1758) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: A2 +付加的事情
| 基準A: CR | 基準B: ― | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
A2.過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、80%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。 【比較年】 3世代(75年) 【過去の状況】 1950年以降の長期モニタリングデータが蓄積されている徳島県大浜海岸では、1950-54年の産卵上陸数は平均74回であった。同じ徳島県の蒲生田海岸でも1950年代の産卵上陸数は150-800回以上であった。 【近年の状況】 徳島県大浜海岸の上陸数は2020-2024 年には平均5回にまで減少している。また、徳島県蒲生田海岸でも2000年以降は数十回にまで産卵上陸数が減少したことが報告されている(亀崎2012)。以上より、1950年代からの減少率は80%以上となることからCRと評価される。なお、短期的に見れば近年の減少傾向がこれより緩やかに見える地域もあるが、この評価基準で使用可能な長期観測データとは位置づけにくい。 以上のように基準を形式的に適用し、絶滅危惧ⅠA類(CR)と判定されたが、次の付加的事情を考慮すると、形式的なカテゴリー判定結果は、本種の絶滅のおそれを過大評価していると考えられるため、カテゴリーを1段階引き下げる。 【考慮すべき付加的事情の種類】 4) その他 【具体的理由】 モニタリングサイト1000や亀崎(2012)の情報を見ると、全国的にはここ30年程で増減を繰り返しながら近年徐々に減少しているものの、減少の程度は徳島の場合ほど大きくはないと考えられる。このことから、徳島県のデータを用いた基準Aによる評価だけでは本種全体の絶滅のおそれを過大に評価する可能性があることを考慮し、カテゴリーを1段階引き下げる。
3. 概要
アカウミガメの北太平洋個体群は北太平洋の温帯・亜熱帯に広く分布する。産卵地は千葉県から南西諸島の日本に限られている。上陸産卵回数は1997年まで減少したが、その後は一時的に増加した。2012年には25,947回の上陸が記録されており、日本で産卵するメスは10,000個体前後と推察されている。しかし、2014年からはまた減少を続け、その数は2021年では半分以下に減少している。本種は、日本でふ化したのち、太平洋に分散して成長する。甲長が60 cmを超えると、日本近海に回帰する。脅威は沿岸域における混獲と砂浜の侵食である。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
甲羅の形はハート形をしており、背甲にはカメフジツボやワレカラ類などが藻類とともに生息していることが多い。成体の背面は褐色、腹面は淡黄色で、ふ化幼体は全身が黒褐色である。相対的に頭部が大きく、顎も頑強である。直甲長は産卵に上陸するメスで70~100 cm、また、太平洋沿岸を回遊する集団で65~90 cmである。
【生活史】
産卵は5~8月にかけて南日本の太平洋岸で行われる。卵は一度に100~120個産下され、メスはシーズン内に複数回産卵する。卵は50~70日でふ化し、幼体は夜間に脱出し海に入り、黒潮に流されて太平洋の広い範囲に分散する。その間、浮遊性の動物を摂食して成長する。ふ化後、15~20年ほど経過すると、再び日本近海に回帰し、成熟に至る。
【生息・生育環境】
本種は動物食性なので熱帯よりも餌の豊富な水温15度以上の温帯海域を好む。ふ化幼体は外洋で漂流生活を行い、流れ藻に隠れて生活・成長する。また、未成熟個体はカリフォルニア半島沖の湧昇流海域のように栄養塩が豊富で、餌となる動物が多い海域に集中して分布する。成体は底性や浮遊性の動物を食べることから、水深300 m以浅の東シナ海や日本の南部の海域も重要な索餌海域である。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_海岸部】砂浜・礫浜 【海域(沿岸)_潮間帯 表層】海面,漂泳界(水柱環境),岩礁(磯),砂底・礫底,泥底 【海域(外洋)_表層】海面,漂泳界(水柱環境) |
|---|---|
| 国土地域区分 | (5)沿岸域,(6)海洋域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
インド~太平洋、大西洋、地中海の温帯海域に分布しており、主要な産卵地も南日本以外にオーストラリアの北東岸、オマーン、南アフリカ、ギリシャ、アメリカ合衆国南東岸、ブラジルなどにある。太平洋集団においては、南日本でふ化した幼体は、黒潮に流され北太平洋に広く分散する。幼体の多くは、カリフォルニア半島沖で成長した後に日本近海まで回遊してくる。従って、日本産のアカウミガメの分布は北太平洋の温帯域を中心に広い範囲にある。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
太平洋の温帯域を中心に広く分布する。これらの海域では漁業が盛んに行われており、本種も混獲されている。瀬戸内海などの浅海域は摂餌場所であったと予想されるが、漁業活動等により分布域ではなくなった。また、大阪府堺市から泉南市にかけて、兵庫県神戸市須磨区から垂水区にかけて、別府湾の砂浜は、産卵地であったが現在では埋め立てられ、繁殖地としての機能を失った。さらに、日本の海岸線の砂の浸食は他の地域でも激しく、御前崎(静岡)、蒲生田(徳島)の海岸もその機能を失いつつある。
【生息・生育地の現況】
関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸や南西諸島の砂浜で産卵するが、その多くの海岸で侵食が懸念されている。とくに深刻なのは宮崎県の海岸で、大淀川河口から北に向かって産卵のための環境は劣化している。このような産卵地の劣化は、全国的に深刻である。また、定置網など沿岸漁業による混獲死も報告されている。
【個体数の現況】
南九州の砂浜では、1990~97年まで上陸・産卵回数が顕著に減少したが、その後、増加に転じ、2012年頃に最大となり再び減少する。四国地方、紀伊半島、東海地方の海岸では、1990~97年にかけての減少傾向は同じだが、その後の回復度合いが南九州よりも低い。とくに、四国地方の蒲生田海岸と日和佐大浜海岸は復活の兆しがない。また、屋久島うみがめ館の調査結果は2014年には9000回を超えた上陸が2018年には3000回を下回り、日本全域での産卵個体数の激減が懸念される。
存続を脅かす要因
存続を脅かすもっとも重要な要因は漁業による溺死である。毎年、日本の海岸線では200個体程度のアカウミガメの死体が打ち上がるが、その多くが漁業による溺死と考えられる。とくに、定置網はその形状によっては多くのウミガメを溺死させる。また、高知県や和歌山県ではアカウミガメを食す文化がある。産卵場となる砂浜海岸からの砂の消失も深刻である。産卵海岸のほとんどで人工構造物に起因する砂の流出が見られ、繁殖地としての機能を失った砂浜が増加している。また、むやみな卵移植や子ガメの放流会も脅威となっている。
| 要因の区分 | (過去) | 海岸開発,捕獲・狩猟/園芸採取,混獲・錯誤捕獲,光害 |
|---|---|---|
| (現在) | 海岸開発,捕獲・狩猟/園芸採取,混獲・錯誤捕獲,光害,気候変動 |
特記事項
徳島県の長期観測データはアカウミガメの長期傾向を示すものとして世界的に見ても非常に貴重なものである。アメリカ合衆国のESA(Endangered Species Act)において、アカウミガメの北部太平洋個体群はEndangeredと位置づけられている。国立・国定公園の指定動物に指定されている(屋久島国立公園、西表石垣国立公園、慶良間諸島国立公園)。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第4次 2019 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第4次 2018 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第4次 2017 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第4次 2015 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第4次 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第3次 | アカウミガメ | Caretta caretta | EN |
| 第2次 | アカウミガメ | Caretta caretta | VU |
| 第1次 | アカウミガメ | Caretta caretta | R |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【岩手県】留意,【宮城県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【福島県】準絶滅危惧(NT),【茨城県】絶滅危惧Ⅱ類,【千葉県】最重要保護生物(A),【東京都(伊豆諸島)】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【東京都(小笠原諸島)】情報不足(DD),【神奈川県】絶滅危惧Ⅱ類,【石川県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【福井県】県域絶滅危惧Ⅱ類,【静岡県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【愛知県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【三重県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【大阪府】CR+EN,【兵庫県】Aランク,【和歌山県】準絶滅危惧(NT),【鳥取県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【岡山県】情報不足,【徳島県】絶滅危惧ⅠB類,【愛媛県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【高知県】絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN),【福岡県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【佐賀県】絶滅危惧Ⅰ類,【長崎県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【熊本県】絶滅危惧ⅠA類(CR),【大分県】絶滅危惧ⅠB類(EN),【宮崎県】準絶滅危惧(NT-g),【鹿児島県】絶滅危惧Ⅱ類,【沖縄県】絶滅危惧Ⅱ類(VU)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
都道府県条例指定種【静岡県・愛知県・徳島県・熊本県】
5. 参考⽂献
Hatase, H., 2003. Migrations and habitat use of sea turtles. Zool. Sci., 20(12): 1524. Ishihara, T., N. Kamezaki, Y. Matsuzawa, F. Iwamoto, T. Oshika, Y. Miyagata, C. Ebisui, and S. Yamashita, 2011. Reentery of juvenile and subadult loggerhead turtles into natal waters of Japan. Curr. Herpetol., 30(1): 63–68. 亀崎直樹,2003.ウミガメからみた沿岸域,特に砂浜と海岸の現状と未来.沿岸域,16(1): 45–53. 亀崎直樹,2010a.海洋におけるウミガメ保護,pp. 197–200,朝倉書店,東京. 亀崎直樹,2010b.ウミガメの産卵場としての砂浜の保全,pp. 192–196,朝倉書店,東京. 亀崎直樹,2021.アカウミガメ.日本爬虫両棲類学会(編),新日本両生爬虫類図鑑,pp. 87-88,サンライズ出版,彦根. 亀崎直樹(編),2012.ウミガメの自然誌:産卵と回遊の生物学.東京大学出版会,東京.301pp. Kamezaki, N., Y. Matsuzawa, O. Abe, H. Asakawa, T. Fujii, K. Goto, S. Hagino, M. Hayami, M. Ishii, T. Iwamoto, T. Kamata, H. Kato, J. Kodama, Y. Kondo, I. Miyawaki, K. Mizobuchi, Y. Nakamura, Y. Nakashima, H. Naruse, K. Omuta, M. Samejima, H. Suganuma, H. Takeshita, T. Tanaka, T. Toji, M. Uematsu, A. Yamamoto, T. Yamato, and I. Wakabayashi, 2003. Loggerhead Turtles Nesting in Japan., pp. 210–217, Smithsonian Books, Washington, D. C. 上野真太郎・岡本 慶・石原 孝・亀崎直樹,2025.日本におけるウミガメ類の分布.爬虫両棲類学会報,2025(2): 127–144.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Caretta caretta has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Caretta caretta was formally listed as CR under criteria A2.
A. Reduction in population size based on any of the following: 2. An observed, estimated, inferred or suspected population size reduction of ≥80% over the last 10 years or three generations, whichever is the longer, where the reduction or its causes may not have ceased OR may not be understood OR may not be reversible. However, after taking additional factors into consideration, the risk of extinction for this species was considered to be overestimated. Therefore, the formal listing was revised to EN.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Beach】Sandy beach/Pebble beach 【Marine area (Coastal area)_Intertidal zone, Surface water】Sea surface, Pelagic water (water column environment), Reef, Sandy bottom/Gravelly bottom, Muddy bottom 【Marine area (Open sea)_Surface water】Sea surface, Pelagic water (water column environment) |
|---|---|
| Threat types | Coastal development, Hunting and collecting animals/Gathering plants, Bycatch, Light pollution, Climate change |
| Law designation status for conservation | Prefectural Ordinance-Designated Species【Shizuoka・Aichi・Tokushima・Kumamoto】. |
| 執筆者: | 亀崎直樹(岡山理科大学) |
| Author: | Naoki Kamezaki |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©亀崎直樹
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