評価分科会名: 爬虫類・両生類分科会
1. 判定対象種情報 日本固有
| ⽬名 | カメ目 | 科名 | イシガメ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Testudines | Family | Geoemydidae |
| 和名 | ヤエヤマイシガメ | ||
| 学名 | Mauremys mutica kami Yasukawa, Ota et Iverson, 1996 | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: B2ab
| 基準A: ― | 基準B: EN | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
B2.生息地面積が500 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。 【地点数】5地点以下 b) 出現範囲、生息地面積、生息地の質、生息地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 本亜種が分布する石垣島、西表島、与那国島では継続的に水田が減少しており、それに伴って本種の生息地も減少し続けている。また、販売目的の捕獲も個体数減少の一因になっていると考えられる。
3. 概要
八重山諸島に分布する日本の固有亜種。背甲は褐色ないしオリーブ色で基亜種よりも扁平。水田や農業用のため池などに多いが、山地森林の中を通る林道沿いや、谷筋の池でも観察される。水田の減少と販売目的の違法採集が本亜種の存続を脅かす主要因と考えられる。さらに、基亜種のミナミイシガメがペットとして流通しており、それらが本亜種の生息範囲に持ち込まれ、逸走した場合、交雑による遺伝的汚染の進行が強く懸念される。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
背甲長はオスで最大189 mm、メスで176 mmに達する。オスは大型で、腹甲は凹む。背甲は褐色で基亜種ミナミイシガメよりも色が薄い傾向がある。基亜種よりも甲の高さが低く、幅広のため、扁平にみえる。頭部の基色は、基亜種が茶色や暗褐色なのに対し、本亜種は黄褐色ないしオリーブ色で、目の後方の黄色い模様は無いか目立たない。腹甲は各甲板に暗色の部分があるが、そのサイズは基亜種よりも小さく、互いにつながらずに独立している。
【生活史】
オスのほうが大型になるサイズの性的二型は、水中でオスが半ば強制的にメスに乗りかかり交尾することと関係していると考えられている。飼育下で、8月から9月初旬に4個の卵を産んだという記録がある。半水性で、水中にいることが多いが、降雨のある夜間に地上を徘徊している個体を見かけることもある。雑食性で、落下した陸生植物の果実、魚類、両生類の幼生、昆虫類、ミミズなど様々なものを餌とする。
【生息・生育環境】
水田や池、湿地などに多いが、穏やかな流水域で見られることもある。農業用のため池や水田などの人為的環境で多く見られるが、少なくとも西表島や与那国島では山地森林の中を通る林道沿いの集水桝や、谷筋に自然にできたと思われる池でも普通に観察されることから、丘陵地にもかなりの個体が生息しているものと思われる。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_低標高地】ため池・池沼 【陸域_平地部】森林,田地・畑地,湿地・湿原,農業用水路,小河川,ため池・池沼 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域,(4)河川・湿地地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
八重山諸島の固有亜種で、石垣島、西表島、与那国島に分布する。基亜種のミナミイシガメMauremys mutica muticaは台湾、中国南部ベトナムなどに分布する。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
本亜種の分布は石垣島、西表島、与那国島の3島に限定され、水田や人工的なため池などを主たる生息地としている。水田の面積は3島全てで大幅に減少していることから、生息範囲は狭まっていると考えられる。外来種として、宮古島や沖縄島をはじめ、沖縄県の他の多くの島に定着しており、場所によってはその密度は低くない。
【生息・生育地の現況】
水田の減少に加え、農薬の使用の影響も指摘されており、本亜種の生息環境は悪化している。
【個体数の現況】
石垣島、西表島、与那国島における水田の面積は、2009年の資料ではおよそ640haに過ぎない。この数字と、センサス調査に基づく生息密度の概算値から、3島を合計した個体数はおよそ33,000個体と推定されている。水田以外で本種を見かけることも少なくないことから、推定個体数については再評価が必要と思われるが、それでも個体数は限られていると考えるべきである。
存続を脅かす要因
水田の減少と販売目的の捕獲が本亜種の存続を脅かす2大要因と考えられる。水田の面積は、本亜種が分布する3島のいずれにおいても顕著に減少しており、全体では、過去数十年の間に半分以下になっているという資料がある。石垣島では最近の土地開発がこれに拍車をかけている。販売目的の捕獲について、2010年代半ばに、1年半の間におよそ6,000個体が捕獲されていたという資料があり、仮に、現存個体数が33,000個体だとすると、1年間で全体の12%にあたる個体が採られていたことになる。現在では、本亜種の輸出は制限されているものの、依然、売買用のカメ類の需要は高いと思われ、最大限の警戒が必要である。また、轢死も個体数減少の一因になっている可能性がある。さらに、基亜種との交雑による遺伝的汚染も懸念される。基亜種ミナミイシガメはペットとして販売されており、また、国内に定着個体群も存在するため、それらが八重山諸島の3島に持ち運ばれ遺棄された場合、遺伝的汚染は容易に進行してしまうと考えられる。また、沖縄県の島々に定着している同亜種の個体群のなかにはすでに純系のヤエヤマイシガメではないものも混じっている可能性もあり、そういう意味でも、島間の個体の持ち運びは慎むべきである。
| 要因の区分 | (過去) | 湿地開発,圃場整備,捕獲・狩猟/園芸採取 |
|---|---|---|
| (現在) | 河川開発,湿地開発,圃場整備,捕獲・狩猟/園芸採取 |
特記事項
特になし。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ヤエヤマイシガメ | Mauremys mutica kami | VU |
| 第4次 2019 | ヤエヤマイシガメ | Mauremys mutica kami | VU |
| 第4次 2018 | ヤエヤマイシガメ | Mauremys mutica kami | VU |
| 第4次 2017 | ヤエヤマイシガメ | Mauremys mutica kami | VU |
| 第4次 2015 | ― | ― | ― |
| 第4次 | ― | ― | ― |
| 第3次 | ― | ― | ― |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【沖縄県】準絶滅危惧(NT)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
都道府県条例指定種【沖縄県】
5. 参考⽂献
嶋津信彦,2019.沖縄におけるヤエヤマイシガメの2つの顔.九州両生爬虫類研究会(編),九州・奄美・沖縄の両生爬虫類–カエルやヘビのことをもっと知ろう,pp. 210–211.東海大学出版部,平塚. 鈴木大,2021.ミナミイシガメ .日本爬虫両棲類学会(編),新日本両生爬虫類図鑑,pp. 94-95.サンライズ出版,彦根. 戸田守,2017.ヤエヤマイシガメ.沖縄県環境部自然保護課(編)改定・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 202–203.沖縄県環境部自然保護課,那覇. Yasukawa, Y., H. Ota, and J. B. Iverson, 1992. Geographic variation and sexual size dimorphism in Mauremys mutica (Cantor, 1842) (Reptilia: Bataguridae), with description of a new subspecies from the Southern Ryukyus, Japan. Zoological Science, 13: 303–317.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Mauremys mutica kami has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Mauremys mutica kami is listed as EN under criteria B2ab.
B2. Area of occupancy estimated to be less than 500 km², and estimate indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at five or fewer locations. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Low-altitude area】Reservoir/Pond 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Forest, Farmland, Wetland, Agricultural ditch, Small river, Reservoir/Pond |
|---|---|
| Threat types | River development, Wetland development, Field preparation, Hunting and collecting animals/Gathering plants |
| Law designation status for conservation | Prefectural Ordinance-Designated Species【Okinawa】. |
| 執筆者: | 戸田守(琉球大学) |
| Author: | Mamoru Toda |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©谷口晃基