評価分科会名: 爬虫類・両生類分科会
1. 判定対象種情報 日本固有
| ⽬名 | 有鱗目 | 科名 | カナヘビ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Squamata | Family | Lacertidae |
| 和名 | ミヤコカナヘビ | ||
| 学名 | Takydromus toyamai Takeda et Ota, 1996 | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧ⅠB類(EN) 判定基準: B2ab
| 基準A: ― | 基準B: EN | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
B2.生息地面積が500 km²未満であると推定されるほか、次の兆候が見られる。 a) 生息地が過度に分断されているか、5以下の地点に限定されている。 【過度に分断】 宮古島のなかで、本種の生息に適する森林に面した草地は農耕地などにより激しく断片化しており、野外調査の結果から、それらの間の地域に、基本的に本種が生息しない空白地帯があることはほぼ明らかである。また、周辺離島における本種の分布もほとんどの場合局地的であり、現在の農地の多くが本種の生息に適さないことはほぼ間違いない。 b) 出現範囲、生息地面積、生息地の質、生息地点数、成熟個体数のいずれかに継続的な減少が推定・予測される。 【判断理由】 人為的な環境改変による生息地の消失は現在でも進行しており、今後、それに歯止めがかかると予測できる要素はない。
3. 概要
宮古諸島に分布する日本固有種。細長い体型と長い尾をもち、体色は緑色。草むらを生息場所とし、日中に活動中の個体が見られる。以前は普通種であったが、近年顕著に数を減らしている。直近の10年間においても減少は明らかで、わかっているだけでも既知の生息地がいくつか消失している。圃場整備や宅地の造成、その他の土地開発に伴って生息適地は継続的に減少している。そのほかにも、農薬の使用を含む農業形態の変化、ニホンイタチ、インドクジャク、イエネコ等による捕食、ペット販売を目的とした違法採集の影響が考えられる。生息地は不連続であり、個々の生息地の縮小と断片化とが複合的に効いて、分布域のほとんどで大幅な個体数の減少を招いていると考えられる。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
体型は細長く、尾が長い。頭胴長は45~65 mmで、尾はその3〜3.5倍の長さ。背面は鮮やかな緑色で四肢は褐色であることが多い。ごく稀に胴背面が淡褐色の個体が出現する。アオカナヘビと体色は似ているが、アオカナヘビに見られる頭胴部側面の白線がない。また、アオカナヘビに見られるような、オスの体表に広く褐色部が存在するという意味での性的二型はない。咽頭板は3対、鼠径孔は1対でアオカナヘビと同様だが、腹面鱗列数がアオカナヘビは6列であるのに対してミヤコカナヘビは8列。
【生活史】
一年に複数回産卵し、一度に1〜3個(通常は2個)の卵を産む。草の根元や浅い土中に産卵すると思われるが詳細は不明。卵は1ヶ月半ほどで孵化する。産卵期は3〜9月と長期におよび、5月から孵化幼体の加入が始まる。春季〜夏季の幼体の成長は著しく早く、シーズンの前半に孵化した個体は2.5ヶ月ほどで成熟し、同年のうちに繁殖に参加する。繁殖後も生存して翌シーズンに繁殖する場合もあるが、2年を超えて生残することはかなり稀。標識再捕獲法による調査から、大多数の個体は1年以上生存しないと考えられる。昼行性で、おもに昆虫やクモなどの小型節足動物を捕食する。冬季には活動性が低下するが、気温が高い日には活動している個体をみかける。縄張りなどの行動は知られていないが、成体のほとんどで、交尾痕以外にも体表に他個体によって付けられたと考えられる噛み跡が確認されるため、多少なりとも排他的な行動をとると思われる。
【生息・生育環境】
主に林縁部の草地に生息する。農耕地や民家の庭などでも確認されるほか、林内でみられることもある。乾燥に弱く、朝、夜露を舐めて吸水するため、露が降りる環境であることが重要と考えられる。草本で覆われた農業用の水路のなかで見つかることもある。日中、日なたで体温調節を行い活発に活動する。地面に降りることもあるが、主にススキなどの草の上で活動し、つる植物や、低木の枝を利用することもある。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_低標高地】森林,草地,田地・畑地,耕作放棄地,農業用水路 【陸域_平地部】森林,草地,田地・畑地,耕作放棄地,住宅地,市街緑地,農業用水路 |
|---|---|
| 国土地域区分 | (2)里地里山・田園地域,(3)都市地域,(4)河川・湿地地域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
宮古諸島に固有で、宮古諸島のなかでは多良間島と水納島を除く全ての島に生息する。過去の産地記録や生息状況を記した資料は限られるが、聞き取り調査の結果などから、1970年代ごろまでは農耕地や集落内を含む人の生活圏の周辺で普通に見られていたことが示唆され、少なくとも宮古島と伊良部島の広い範囲にかなりの密度で生息していたと考えられる。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
現在は、生息を確認できる地点が点在している状況で、多くの生息地は狭い範囲に限定されているうえ、確認される個体数も少ない。宮古島では、島の中央部から東にかけての地域で特に少なく、現在でも個体が確認されているのは数カ所にも満たない。池間島、来間島、伊良部島、下地島でも個体の確認地点はぞれぞれの島の一部に局在している。大神島では比較的広い範囲に分布している可能性が高いが、数は多くない。
【生息・生育地の現況】
文献記録をはじめ過去に生息の情報があった地点でも、ほとんど個体を確認できなくなっている場所がある。それ以外の地域においても、一見、本種が好みそうな環境であるにも関わらず、個体が確認できない場所が非常に多い。また、ここ数年間のうちに、人為的な環境改変により完全に消失してしまった生息地も複数ある。イタチによる捕食が確認されており、インドクジャクにも食害されている可能性がある。農耕地でも生息しているところがあるが、個体を見つけるのは容易でない。かつては畑に普通にいたという情報があることから、農耕地における生息数の減少は著しいものと考えられる。
【個体数の現況】
2000年頃までは、比較的多くの個体を見ることができる生息地もあったが、現在はほとんどの生息地で個体密度は相当低い状態にあると考えられる。ここ数年の間に完全に消失した生息地も複数あることから、個体数の減少は明らかである。
存続を脅かす要因
かつてのどこででも普通に見られた状況から減少した要因として、圃場整備や宅地造成などの環境改変と、農薬散布をはじめとする農業形態の変化が最も影響していると考えられる。生息地は不連続であり、個々の生息地の縮小と断片化とが複合的に効いて、分布域のほとんどで大幅な個体数の減少を招いていると考えられる。ただし、土地造成や農薬と直接関係しない緑地の周辺でも本種を見ることが少なくなっており、イタチやインドクジャク、イエネコによる食害も大きな圧迫要因の一つとなっていると考えられる。ペット用の販売のために本種が流通していたことが確認されているうえ、違法に採集されているという情報もあり、それも減少要因の一つと考えられる。
| 要因の区分 | (過去) | 圃場整備,草地開発,ゴルフ場,土地造成,農薬汚染/化学物質汚染,捕食(外来種による),管理放棄,違法採集 |
|---|---|---|
| (現在) | 圃場整備,草地開発,土地造成,捕食(外来種による),管理放棄,発電施設建設,違法採集 |
特記事項
分子系統学的解析から、本種は、地理的に隣接して分布し、体色もよく似たサキシマカナヘビやアオカナヘビとは系統が異なり、台湾のスタイネガーカナヘビT. stejnegeriや中国のキタカナヘビTakydromus septentrionalisに近縁であることが示されている。とはいえ、それらの種とも明確に分化している独立種である。近年の地質学的研究から、数十万年より前にはほぼ全域が水没していたと考えられる宮古諸島の近傍に大きな陸塊があり、そこが宮古島の固有種の起源ではないかという説が唱えられたが、台湾や中国に最近縁種を持つミヤコカナヘビの起源については、その説に基づいても十分合理的に説明できず、課題を残している。このように、島の陸生生物相の成り立ちや島の成立を知るうえで学術的に貴重な存在ということができる。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | CR |
| 第4次 2019 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | CR |
| 第4次 2018 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | CR |
| 第4次 2017 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | CR |
| 第4次 2015 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | CR |
| 第4次 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | CR |
| 第3次 | ミヤコカナヘビ | Takydromus toyamai | EN |
| 第2次 | ― | ― | ― |
| 第1次 | ― | ― | ― |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【沖縄県】絶滅危惧ⅠB類(EN)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
国内希少野生動植物種,保護増殖事業
5. 参考⽂献
Asato, H., and M. Toda. 2025. Precocious maturation and semi-multivoltine lifecycle in a subtropical grass lizard, Takydromus toyamai. Curr. Zool., 71: 184-195. 安里瞳・立津槙斗・神里秀美・徳嶺夏南子・徳嶺美南子・上地翔平・伊川佳那・石川作実・儀間朝宜・権田雅之・才木美香・戸田守.2021.ミヤコカナヘビの夜間の寝場所の選択について.Akamata,30: 29-33. 河内紀浩・中村泰之・渡邉環樹,2018.国内由来の外来種ニホンイタチMustela itatsi による絶滅危惧種ミヤコカナヘビTakydromus toyamai の捕食.哺乳類科学 58(1): 73–77. Lin, Si-Min, C. A. Chen, and K. Y. Lue, 2002. Molecular phylogeny and biogeography of the grass lizards genus Takydromus (Reptilia: Lacertidae) of East Asia. Mol. Phylogenet. Evol., 22: 276–288. 饒平名里美・当山正直・安川雄一郎・陳賜隆・高橋健・久貝勝盛,1998.宮古諸島における陸棲爬虫両生類の分布について.平良市総合博物館紀要,5: 23–38. Ota, H., M. Honda, S. L. Chen, T. Hikida, S. Panha, H. S. Oh, and M. Matsui, 2002. Phylogenetic relationships, taxonomy, character evolution and biogeography of the lacertid lizards of the genus Takydromus (Reptilia: Squamata): a molecular perspective. Biol. J. Linn. Soc., 76: 493–509. 才木美香・新城宗史・久貝春陽・戸田守,2018.住民からの目撃情報に基づくミヤコカナヘビ(爬虫綱: 有隣目: カナヘビ科)の分布状況.沖縄生物学会誌,56: 1-10. Takeda, N. and H. Ota, 1996. Description of a new species of Takydromus from the Ryukyu Archipelago, Japan, and a taxonomic redefinition of T. smaragdinus Boulenger 1887 (Reptilia: Lacertidae). Herpetologica, 52: 77–88. 竹中践,2014.ミヤコカナヘビ.環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室(編)レッドデータブック2014–日本の絶滅のおそれのある野生生物-3 爬虫類・両生類.pp. 6–7.ぎょうせい,東京. 竹中践, 2021.ミヤコカナヘビ.日本爬虫両棲類学会(編),新日本両生爬虫類図鑑,pp. 149-151.サンライズ出版,彦根. 立津槙斗・神里秀美・徳嶺夏南子・徳嶺美南子・上地翔平・伊川佳那・石川作実・儀間朝宜・権田雅之・戸田守・才木美香.2022.聞き取り調査に基づくミヤコカナヘビ(爬虫綱:有鱗目)の過去の生息状況.沖縄生物学会誌,60: 1–10. 戸田守・当山昌直,2017.ミヤコカナヘビ.沖縄県環境部自然保護課(編)改定・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(動物編)-レッドデータおきなわ-,pp. 186–187.沖縄県環境部自然保護課,那覇. 戸田守・高橋洋生,2018.ミヤコカナヘビの保全―現状と今後の展望―.爬虫両棲類学会報,2018(2):187-193. 当山昌直,2019.両生類・爬虫類.宮古島市史 第3巻自然編第一部 みやこの自然,宮古島市史編さん委員会(編),pp. 419–444.宮古島市教育員会,宮古島市, Watanabe, N, M. Otsubo, H. Ota, M. Toda, A. Tominaga, S. Chiyonobu, T. Sato, and Y. Iryu, 2023. Geological history of the land area between Miyako Jima Island and Okinawa Jima Island of the Ryukyus, Japan, and its phylogeographical significances for the terrestrial organisms of these and adjacent islands. Prog. Earth Planet. Sci., 10: 40.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Takydromus toyamai has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Takydromus toyamai is listed as EN under criteria B2ab.
B2. Area of occupancy estimated to be less than 500 km², and estimate indicating at least two of a-c: a. Severely fragmented or known to exist at five or fewer locations. b. Continuing decline, observed, inferred or projected, in any of the following: (i) extent of occurrence (ii) area of occupancy (iii) area, extent and/or quality of habitat (iv) number of locations or subpopulations (v) number of mature individuals
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Low-altitude area】Forest, Grassland, Farmland, Abandoned farmland, Agricultural ditch 【Terrestrial/Freshwater area_Plain】Forest, Grassland, Farmland, Abandoned farmland, Residential area, Urban green area, Agricultural ditch |
|---|---|
| Threat types | Field preparation, Grassland development, Land development, Predation (by alien species), Abandonment of management, Power plant construction, Illegal harvesting of biological resources |
| Law designation status for conservation | Nationally rare species of wild fauna and flora. Conservation and reproduction programs. |
| 執筆者: | 戸田守(琉球大学) |
| Author: | Mamoru Toda |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©髙橋洋生(自然環境研究センター)
©髙橋洋生(自然環境研究センター)