評価分科会名: 爬虫類・両生類分科会
1. 判定対象種情報
| ⽬名 | カメ目 | 科名 | ウミガメ科 |
|---|---|---|---|
| Order | Testudines | Family | Cheloniidae |
| 和名 | アオウミガメ | ||
| 学名 | Chelonia mydas (Linnaeus, 1758) | ||
2. カテゴリー判定: 絶滅危惧Ⅱ類(VU) 判定基準: A2
| 基準A: VU | 基準B: ― | 基準C: ― | 基準D: ― | 基準E: ― |
A2.過去10年間もしくは3世代のどちらか長い期間を通じて、30%以上の減少があったと推定され、その原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。 【比較年】 3世代(120年) 【過去の状況】 小笠原諸島では1880年から捕獲数の記録が残されており(Kondo et al., 2017)、日本においてはもっとも長期にわたる本種の観測データとなっている。現在から約3世代前に相当する1900年頃の小笠原諸島での捕獲数は200~1400個体と記録されている。 【近年の状況】 小笠原諸島における2015年頃の来遊数は毎年約250~600個体程と推定されている。直近のデータは公表されていないが、現在もこれと同レベルまたはそれよりもやや多いと考えられる。過去を約800個体、現在を約500個体として比較すると減少率は30%を超える。なお、南西諸島でも本種の産卵は見られ、その挙動は小笠原とは異なる可能性があることも指摘されているが、小笠原諸島個体群は国内全体の個体数の半数以上を占めると考えられることから、今回の評価では、小笠原諸島の長期的な傾向が国内全体の傾向を反映しているものと見なし、減少率の推定には小笠原諸島の雌個体数データを用いた。
3. 概要
アオウミガメは南西諸島と小笠原諸島の砂浜で産卵する。産卵巣の数は徐々に増加し、その個体群サイズは回復しつつある。南西諸島から本州の沿岸は、本種の重要な餌場であり、多くの幼体や亜成体が生息している。これらの海域ではマクサを餌にしていることが多いが、そのマクサなどの餌が磯焼けなどで減少していることが懸念される。また、他の種と同様に、砂浜の消失や護岸の建設は本種にとっても脅威となる。
4. 掲載種の情報
基礎情報
【形態】
背甲や四肢、頭部の色彩は濃緑色から黒色、腹面は白色から淡黄色である。甲長が50 cm以下の個体は背甲の肋甲板、椎甲板に放射状の褐色の模様が入ることが多い。体表全体がアカウミガメやタイマイに比べ滑らかで、嘴も尖っておらず、角質化した表皮からなる顎は鋸歯状になっている。鱗板では前額板が1対からなるのが特徴である。
【生活史】
本種の産卵が行われ、ふ化幼体が産出する砂浜は、アカウミガメとは分布が異なっていることから、アカウミガメのようにふ化幼体が広く大洋に分散するのとは異なった生活史をもつと予想される。しかし、甲長が30 cm以下の幼体が見つかることは少なく、ふ化後数年の間、どこでどのような生活をしているのか分かっていない。甲長が30 cmを超えると、外洋を漂う生活から浅海域に留まる生活に移行すると考えられ、それ以降は主に植物食性になると思われる。その後、餌場を移動したり、再び外洋に出て動物食になるなどしながら成長し、数十年かけて成熟すると予想される。
【生息・生育環境】
本種が餌とする海藻類、とくにマクサやキリンサイといった紅藻類やリュウキュウスガモなどの水中顕花植物が豊富に生育することが生息環境として重要である。マクサが生育するのは水深10 m以浅の岩礁海域であり、また、そのような環境は休息するような岩穴やくぼみが多く、生息に適している。また、産卵に適した砂浜は、島嶼の外洋に面した海岸で、砂が豊富に堆積し、アダンやモンパノキなど低木が繁茂する場所である。
| 生息・生育環境区分 | 【陸域_海岸部】砂浜・礫浜,海崖・岩浜・岩礁(磯) 【海域(沿岸)_潮間帯 表層】海面,漂泳界(水柱環境),岩礁(磯),藻場,アマモ場,サンゴ礁,砂底・礫底,泥底 【海域(外洋)_表層】海面,漂泳界(水柱環境) |
|---|---|
| 国土地域区分 | (5)沿岸域,(6)海洋域,(7)島嶼地域 |
【分布域】
インド洋~太平洋、大西洋、地中海の温帯を含む熱帯域に分布する。産卵地も熱帯海域の島嶼部を中心に広く分布し、フィリピンやマレーシアなどの特定の島嶼ではとくに集中して産卵する場所も確認されている。日本はその産卵海域の北縁部に位置し、屋久島・種子島以南の南西諸島と小笠原諸島の砂浜で産卵している。また、太平洋側では三陸海岸、日本海側では能登半島付近から南西諸島にかけて、アオウミガメの幼体から亜成体が多く分布している。かつては内湾のアマモ場も餌場として使っていたと予想される。ダイバーから得られる情報からは、南日本の沿岸域でも、八重山諸島、慶良間諸島、沖縄島、沖永良部島、種子島、屋久島、高知県柏島、八丈島などの沿岸で密度が高いと思われる。
現在の生息・生育状況
【分布域の現況】
本種は植物食性であり、昨今の磯焼けや藻場の衰退による藻類や海草の減少により、その分布域は狭まっていると考えられる。とくに、瀬戸内海や有明海などの浅海域にかつて豊富に存在したアマモ場は餌場として利用されていた可能性が高いが、現在は分布していない。しかしながら、近年の捕獲圧の減少や卵の保護、さらには自然保護思想の普及によって近年生息数が増えており、西表島や黒島ではその増加が記録されている。また、西表島や久米島などでは、漁師の網にかかって網が破られるという問題も浮上している。
【生息・生育地の現況】
現在、重要な索餌海域となっている本州、四国地方、九州地方の浅海の岩礁地帯は、磯焼けによって藻類の生育が悪化している可能性がある。また、西表島では本種の捕食によるリュキュウスガモの衰退が見られ、問題になっている。南西諸島の産卵地である砂浜では、開発や付近の海洋構造物の建設によって、産卵の適地となる植生帯の破壊や砂の消失が起こっている。
【個体数の現況】
個体数の相対変動の指標となる上陸・産卵回数に関する情報は南西諸島に関しては日本ウミガメ協議会にある程度集められている。それによると、八重山諸島(石垣島や黒島)や慶良間諸島、沖縄島、沖永良部島、奄美大島では全体的に増加している。また、小笠原諸島でも年毎の変動はあるもののELNAの調査では増加している。海中でダイバーがアオウミガメと遭遇する頻度も高くなっており、八重山諸島から四国地方にかけての沿岸で増加していると考えられる。西表島や久米島では船上から観察される個体も増えて、30分で10個体を超えることも珍しくはない。
存続を脅かす要因
本種は沿岸の岩礁地帯に生息しているため、秋~冬に行われるイセエビを狙った刺網に絡んで溺死することが多いと考えられる。さらに、屋根の設置された定置網や一般に「ツボ網」と呼ばれる漁業での混獲死は少なくない。また、南西諸島にある産卵地の砂浜は、さまざまな理由による砂の消失で、産卵地としての機能を失いつつあるところも少なくない。
| 要因の区分 | (過去) | 海岸開発,混獲・錯誤捕獲,光害 |
|---|---|---|
| (現在) | 海岸開発,混獲・錯誤捕獲,光害,気候変動 |
特記事項
小笠原諸島で産卵する集団と沖縄県で産卵する集団は、遺伝的に異なる集団である。また、広義アオウミガメ Chelonia mydas には狭義アオウミガメ Chelonia mydas mydas とクロウミガメ Chelonia mydas agassizii の2亜種が認められていたが、形態的に異なるクロウミガメChelonia agassiziiが独立種として認められるようになり、2021年に発行された「新日本両生爬虫類図鑑」にも別種として掲載された。日本近海に生息するのはおもに狭義アオウミガメChelonia mydasであるが、東太平洋に分布の中心があるクロウミガメ Chelonia agassiziiもまれに見られる。国立・国定公園の指定動物に指定されている(屋久島国立公園、西表石垣国立公園、慶良間諸島国立公園)。
旧レッドリストカテゴリーと掲載名
| 第4次 2020 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第4次 2019 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第4次 2018 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第4次 2017 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第4次 2015 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第4次 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第3次 | アオウミガメ | Chelonia mydas mydas | VU |
| 第2次 | アオウミガメ | Chelonia mydas | VU |
| 第1次 | アオウミガメ | Chelonia mydas | R |
都道府県レッドリストデータブック掲載状況(令和6年度末時点)
【岩手県】留意,【東京都(伊豆諸島)】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【東京都(小笠原諸島)】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【三重県】準絶滅危惧(NT),【和歌山県】準絶滅危惧(NT),【岡山県】情報不足,【愛媛県】情報不足(DD),【高知県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【長崎県】情報不足(DD),【大分県】絶滅危惧Ⅱ類(VU),【宮崎県】絶滅危惧Ⅱ類(VU-r),【鹿児島県】絶滅危惧Ⅱ類,【沖縄県】準絶滅危惧(NT)
保護に係る法令指定状況(令和7年度末時点)
指定なし
5. 参考⽂献
亀田和成・石原孝,2009.日本沿岸におけるアオウミガメの消化管内容物.うみがめニュースレター,81: 17–23. 亀田和成(編),2013.日本のアオウミガメ.日本ウミガメ協議会,竹富町.122pp. 亀崎直樹,2021.アオウミガメ,日本爬虫両棲類学会(編),新日本両生爬虫類図鑑,pp. 86-87,サンライズ出版,彦根. Okamoto, K. and N. Kamezaki, 2014. Morphological variation in Chelonia mydas (Linnaeus, 1758) from the coastal waters of Japan, with special reference to the turtles allied to Chelonia mydas agassizii Bocourt, 1868. Cur. Herpetol., 33 (1): 46–56. 菅沼弘行,1994.アオウミガメ,日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(I),pp. 469–478,水産資源保護協会,東京. 菅沼弘行・立川浩之・佐藤文彦・山口真名美・木村ジョンソン,1994.1983~1990年の小笠原諸島・父島におけるアオウミガメ(Chelonia mydas)の産卵状況.亀崎直樹・籔田慎司・菅沼弘行(編),日本のウミガメの産卵地,pp. 95–109.日本ウミガメ協議会,大阪. 上野真太郎・岡本 慶・石原 孝・亀崎直樹,2025.日本におけるウミガメ類の分布.爬虫両棲類学会報,2025(2): 127–144.
6. アセスメントサマリー(Assessment summary)
Chelonia mydas has been assessed for threatened wildlife of Japan Red List 5th edition. Chelonia mydas is listed as VU under criteria A2.
A. Reduction in population size based on any of the following: 2. An observed, estimated, inferred or suspected population size reduction of ≥30% over the last 10 years or three generations, whichever is the longer, where the reduction or its causes may not have ceased OR may not be understood OR may not be reversible.
| Habitat types | 【Terrestrial/Freshwater area_Beach】Sandy beach/Pebble beach, Sea Cliff/Rocky beach/Reef 【Marine area (Coastal area)_Intertidal zone, Surface water】Sea surface, Pelagic water (water column environment), Reef, Algae bed, Eelgrass bed, Coral reef, Sandy bottom/Gravelly bottom, Muddy bottom 【Marine area (Open sea)_Surface water】Sea surface, Pelagic water (water column environment) |
|---|---|
| Threat types | Coastal development, Bycatch, Light pollution, Climate change |
| Law designation status for conservation |
| 執筆者: | 亀崎直樹(岡山理科大学) |
| Author: | Naoki Kamezaki |
| 協力者: |
公開年月:2026年3月
©亀崎直樹
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